第46話 ドブ拾い
「はぁ……、わかった。その依頼は俺がしておく。そこまで金が稼げる仕事でもないんだろう?」
「あ、アルフ様が!? だ、駄目ですよ! アルフ様にそんな仕事をさせられませんよ!!」
「でも、今は誰でもできるような仕事じゃなくて、難しい依頼を任せておきたいからな。それに、俺にとっても色々とメリットがある。とにかくこの依頼は任せてくれ」
「わ、わかりました……。では、アルフ様にお願いしますね……」
シャロは恐る恐る依頼書を渡してくる。
「あぁ、任せておけ」
シャロから依頼書を受け取った後、一度城へと戻る。
◇
「がははっ、良い出発日和ですな」
馬に乗り、ミュッカ領へと向かう俺の隣には、大口を開けて笑うイグナーツ。
その様子に俺は苦笑を浮かべていた。
「わざわざ付いてこなくてよかったんだぞ? ポポルの領地に行くだけなんだから……」
「いえ、アルフ様の護衛は必要です! まだ、特訓中の兵に任せるわけにはいきませんから……」
「それはそうだが、男と二人……、それもイグナーツとだもんな……」
「やはりマリナスのほうが強いですから、そちらの方が安心ですか?」
「……今日はやけに素直にマリナスのことを認めるんだな」
「がははっ、もちろんですよ。私だとどうあがいても、能力を向上させたマリナスには歯が立ちませんので……。ただ、そのまま負けを認めるのも違いますので、毎回己を鍛錬して挑んでいるのですよ」
「……そうか」
お互い実力を認め合っているからこそか……。
「このままのんびり行くのも良いですが、少し鍛錬をしながら行っても良いですか?」
「鍛錬? 馬の上で何かするのか?」
「いえ、こうするのですよ……」
突然、イグナーツは馬を止めて、飛び降りる。
そして、馬を担いで走り出していた。
「ふむ、まだ軽いですが、これも訓練でしょう」
「……あぁ、そうだな」
少し感心しそうになっていたのだが、イグナーツはやはりイグナーツだった。
普通に馬を走らせる俺の後を、馬を担いで運ぶイグナーツ。
あまり、人には見られたくない光景だなと思いながら、全力でミュッカ領へと向かっていった。
◇
ようやくたどり着いたミュッカ領。
ポポルがうまく治めているようで、民たちはのどかな暮らしを送っているようだった。
ただ、ドジャーノが残した爪痕も深々と残っている。
石造りの建物は補修もされずに少しボロボロになり、道行く人たちはまだ完全に食料が行き渡っていないのかガリガリで、更に、一番気になるのは町の至る所から漂う臭気。
これが理由でポポルはドブ掃除の人を探していたのだろう。
ただ、これを取るとなると大変そうだな。
とても人一人で終わるような範囲でもない。
ここに来て、イグナーツと一緒に来てよかったと思えてしまった。
力仕事ならイグナーツを置いて他にいない。
あとはこの領には、ジャグラがいる。彼にも協力を仰げば、概ね解決するはずだ。
「よし、早速ポポルに会いに行くか」
◇
ポポルは館で何やら頭を捻らせていた。
「どうかしたのか?」
「あっ、アルフ様。ちょうどよかったよ。この領地の税のことだけど……」
「あぁ、しばらくは減額するってやつだな。まだ多かったのか?」
「ううん、払うのは全然大丈夫なんだけど、ドジャーノがかなり取っていたということがわかってね。……まぁ、結論から言うと余るんだよ」
「その分を領地の整備とかに使ってもらわないといけないからな。むしろ余ってちょうどくらいだ」
「……それが、そのあたりも全て考慮した上で、それでも余るんだよ……。私もこの町の様子をしっかり見てるからね。全て直すにはかなり費用が必要になるなと計算していたのだけど……」
金が多すぎて悩む……。むしろそれが上に立つものとして、当然のことだろう。
「まぁ、その金はいざというときのために貯めておいてくれ。城のほうはまだ全然足りないからな」
「うん、そうしておくよ……。それよりもわざわざ、この領地まで何をしに来たの?」
「あぁ、この依頼だ」
俺がドブ掃除の依頼書をポポルに見せると、口をぽっかり開けていた。
「えっ、ど、どうしてアルフ様が来てるの?」
「まぁ、誰もしなかったからな。仕方なくだ」
「……ドブ掃除ならマリナスに任せておけば一瞬だったのに……」
「……? どういうことだ?」
「うん、だって、ドブなら浄化の魔法を使えば、一瞬できれいになったんだよ?」
「……本当か?」
「そうだよ。しまったなぁ……、マリナス指名で、直接依頼すればよかったかも。ただ、マリナスがまだ見習い冒険者だから、直接依頼とか受けてくれないんだよね……」
「別に冒険者ギルドを通さなくてもいいんじゃないのか?」
「ううん、そんなことをしたら報酬に何を要求されるか……」
「あぁ……」
そういえば、ポポルとシャロはマリナスのお気に入りだったな……。
わざわざ遠回しにしたことで、俺たちが来てしまったのか……。
「まぁ、来てしまったものは仕方ない。俺たちとジャグラでドブ掃除をさせてもらうよ」
「うん、よろしくね」
◇■◇■◇■
今日も畑に来て、農家の人たちに指導をしていたジャグラ。
すると、そんな彼の下に小さな女の子が近づいてくる。
「あぁ、なんだてめぇ!?」
(びくっ!?)
ジャグラからしたら普通に声をかけたつもりなのだが、少女が怯えて肩をふるわせていた。
「す、すまない。怖がらせたか?」
「ふるふる……」
なるべく優しく見える表情をしながら謝ると、少女は首を横に振っていた。
「それよりもこんなところで何をしているんだ?」
「えっと……、わからないの。なんかこの国に悪しき力の人がいるから、聖女のお前が出向けって……」
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