第45話 新職員

 さすがにただ、シャロに任せっぱなしというのも問題になるので、案内を任せた数日後、俺も冒険者ギルドへと様子を見に来た。



「……これは一体どういうことなんだ?」



 ギルドの様子を見て、俺は思わず首をかしげてしまう。


 フルールに付き添ってやってきたはずの騎士たち。

 その半数がなぜかここ、ギルド兼酒場に居座っていた。


 それは、ギルドを調べるという名目できていたので、まだ納得できる

 ただ、騎士たちは酒を片手に冒険者たちと騒ぎあっていた。



「全く、こんなところで一体何を探すんだろうな」

「さぁ、知らないが、ここの酒場にいれば仕事をしていることになるんだ。良い仕事じゃないか」

「お前たち、何騒いでるんだ。酒がまずくなるだろう?」

「あぁ、お前のほうがそこにいるだけでむさ苦しいんだよ!」



 冒険者と騎士が騒ぎあっていると思ったら、急に一触即発の状況になっていた。

 ただ、そんなときに厨房にいたシャロが料理を運んでくる。



「お待たせしました。こちらの料理はどなたが頼まれたものですか?」

「おう、俺だ!」

「では、こちらをどうぞ。あと、あまり喧嘩をしたら駄目ですよ?」

「大丈夫だ、俺たちはこれだけ仲良しだからな」



 冒険者と騎士は肩を組み、笑みを見せ合っていた。

 少し引きつった表情を見せていたが――。


 いつの間にこんな状況になったんだろうか……。

 俺はシャロに声をかける。



「シャロ!」

「あっ、アルフ様。どうしましたか?」



 シャロは嬉しそうに笑みを見せながら、近づいてくる。



「このギルドの状況はどうしたんだ?」

「ギルドの状況? いつもこんな感じですけど……」

「いや、ずいぶんと帝国の騎士たちが来てるんだなと思ってな」

「えっと、それは――」



 シャロはちらっとギルドのカウンターを見る。

 するとそこには、少し粗暴だった騎士の一人、バーグがなぜか鎧ではなく、整った服装をして座っていた。



「あぁ? なんだお前は?」



 俺の顔を見た瞬間に喧嘩を売ってくるところはあまり変わっていない。

 ……って、どうしてあいつがギルド職員として働いているんだ?



「もう、バーグさんは! そんな口をきいたら駄目ですよ! ほらっ、笑顔笑顔」



 シャロが頬を膨らませながらバーグに近づく。

 するとバーグは無理矢理笑顔を作ったような、引きつった表情を浮かべた。



「うん、それでいいですよ。それとバーグさんですが、色々と問題を起こしすぎたみたいで、騎士を辞めさせられたみたいで……」

「辞めさせられたんじゃないぞ。あんなところ、自分から辞めてやったんだ。それにシャロさんには色々と迷惑をかけてしまったからな。その罪滅ぼしだ」

「別にそんなことをしなくて良いって言ってるんですけどね……」



 苦笑を浮かべるシャロ。

 でも、何もしていないのに、勝手に騎士たちを分裂させてくれるのか……。

 シャロの働きに満足して、俺は笑みを浮かべていた。



「わかった、これからもシャロを助けてやってくれ」

「お前に言われなくても当然だ!」

「もう、バーグさんは! ごめんなさい、アルフ様。ちょっとバーグさんは口の聞き方が悪くて……」

「いや、気にしなくて良い。それに元騎士なら何かあったときにシャロを守ってやってくれ」

「いえ、それは私の仕事よ」



 厨房の方からマリナスが出てくる。

 ただ、彼女もシャロと同じ服を着ていた。



「えっ?」

「そうでした。マリーさんもギルド職員として雇ったんですよ。何かあったときに守ってもらえるかなって……」

「私がいる限り、シャロちゃんには指一本触れさせないわよ」



 確かにこの国で一番強いであろうマリナスが守ってくれているなら、シャロの身は安全だ。

 それにここまで馴染んでくれているなら、マリナスがすぐに見つかることもないだろう。

 バレたとしても、早々シャロから離れようとしないだろうから、かえってギルド職員という選択はよかったかもしれないな。



「あぁ? シャロさんを守るのは俺の仕事に決まってるだろう?」

「あなたはその辺の建物でも作っていると良いわ。どうせそれしかできないんだから――」

「何を? やるか?」

「あらっ、手加減なんてできないわよ?」



 にらみ合う二人。

 その間に入り、シャロが仲介をしていた。


 

「もう、二人とも止めてください。そんなに喧嘩ばかりしてると余っている依頼をしてもらいますよ」

「えっ!?」



 マリナスとバーグの動きが固まる。



「んっ? どうしたんんだ?」

「あっ、いえ。ずっとだれもしてくれない依頼があるのですよ。いつまでも余ってるようなら、ギルド職員が行くしかないのですけど……」

「お、俺は無理だぞ……」

「それなら私も無理よ。きっと壊してしまうから――」



 この二人が断るなんて、よほど難しい依頼なんだろうな……。

 そう思いながら、依頼を見るとそこには――。



『町のドブ掃除』

今までろくに掃除をしてこなかったせいで、町中のドブがごみだらけなの。掃除をしてくれる人を募集するよ。


契約金:なし

達成報酬:銀貨十枚

参加人数:多いほど助かります

依頼主:ポポル



 あぁ、単に面倒な依頼……なんだろうな

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