第44話 看病

「うぅ……、あれっ、俺は一体……?」



 ソファーに寝かされていたバーグが目を覚ますと、ゆっくり体を起こしていた。



「あっ、よかったです。無事だったのですね」



 周囲を見たバーグが、すぐ側にいたシャロの顔を見て驚きを浮かべる。



「お、お前……どうして……」

「えっと、あのままにしておくわけにはいかなかったので……」

「そうか……。どうやら俺はまだまだだったようだな。すまない、あんたの実力を誤解していた」



 バーグがその場で頭を下げてくる。



「い、いえ、わ、私のほうこそ勘違いをさせてしまって申し訳ありません」



 シャロも頭を下げる。



「いやいや、元はといえば、俺が横暴な態度をとったのが悪かった。どうにも昔から要領が悪くて、一度思い込んだものは確かめるまで納得ができないんだ……」

「で、でも、私が弱いことは確かで……、今回もマリーさんが助けてくれなかったら、何もできなかったわけですし……」

「そうやって、手を貸したいと思わせるのが、お前の力だろう? ギルドのマスターなんだから、皆をまとめる力がお前の力だ。そして、俺はそれに負けた。ただ、それだけだ……」

「そ、そんなものなんですね……」

「そして、負けた以上はお前の言うことを聞く。これも当然だ。なんでも言ってくれ。迷惑をかけた分、できることはさせてもらう」

「だ、大丈夫ですよ、そんな……」

「いや、それをしないと俺の気が済まない。真剣まで使っていたんだ。場所によっては死罪でもおかしくない。だから、遠慮なく何でも言ってくれ」

「で、でも、そうなるとフルールさんにも迷惑がかかってしまいますよね? うーん……」



 シャロは必死に頭をひねらせて、そして思いつく。



「そうだ。今、冒険者の人たちが空いた大穴を直してくれてるんですよ。それのお手伝いをしてもらって良いですか? あと、そのあとの食事のお手伝いも……」

「そんなことでいいのか?」

「もちろんです。十分すぎるくらいですよ」



 シャロが笑みを見せると、バーグは言葉を詰まらせていた。



「では、早速行きましょう。……あっ、もう立つことはできますか? マリーさんに回復魔法はかけてもらいましたけど、まだつらいようなら――」

「いや、全く問題ない。むしろ、前よりも調子が良いくらいだ」



 ぴょんっとその場で立ち上がると、腕を回してみせる。



「それならよかったです。では、一緒に行きましょうか」

「おうっ!」





 ギルドに降りてくるとマリナスの指揮の下、ギルドの壁は元通りに……戻るどこか、更に壁の穴が広がっていた。



「しゃ、シャロちゃん……、こ、これはその、頑張って直そうとしたんだ……」



 必死に言い訳を考えるマリナス。



「いえ、皆さん頑張ってくれてるのですから、何も言わないですよ。でも、困りましたね……」



 シャロが空いた穴を眺めながら、頭をひねらせる。

 すると、一緒に降りてきたバーグが言う。



「どうしたんだ? 普通に壁に木材を打ち付けて、簡易的に直すんだろう?」

「お、お前は……。またやるのか?」



 マリナスがバーグのことをにらみつける。

 しかし、、バークのほうはその挑発に乗ることなく、そのまま頭を下げていた。



「あんたも悪かったよ。事情を知らずに突っ走りすぎた」

「あ、あぁ……、私はシャロちゃんに迷惑をかけなかったら、それでかまわないぞ」

「それよりも直すんだろう? 道具を貸してくれ。俺が壊したところだ。しっかり直させてもらう」



 冒険者たちから道具を受け取ると、バーグは器用にそれを壁に打ち付けていく。



「な、なんだと!? 壁を壊さずに木を打ち付けられるのか?」



 マリナスは方向違いなほうで驚いていたが、シャロ自身もその手先の器用さに驚きを隠しきれなかった。


 しっかり木を打ち付けられない場所には、その場で微調整を加えたり、どんどんと壁だった場所が塞がっていく。



「えっと、ここはバーグさんに任せておいて良さそうですね。私はお料理を準備してきますね」



 その様子を見た後、笑みを浮かべながら厨房へと向かっていった。





 そして、すっかり壁が塞がったタイミングで、シャロの料理も完成する。

 テーブルいっぱい並べられた料理。

 たくさん置かれた酒。

 それを見た冒険者たちから歓声が上がる。



「うぉぉぉぉ!! 本当に食って良いのか?」

「はいっ、いつも皆様にはお世話になってますから」

「よし、たくさん食うぞ!!」



 一心不乱に料理に飛びつく冒険者たち。

 そこに混ざり合うマリナス。



「シャロちゃんの料理は私が食うんだ!!」



 その様子を苦笑しながら、見ていると部屋の隅のほうに酒を片手に一人でいるバーグを見つける。



「どうしたのですか? 皆さんと一緒に料理を食べないのですか?」

「いや、さすがに俺が起こした騒動だ。混ざりづらくてな……」

「そんなこと誰も気にしないですよ。きっと楽しいですから――」



 ニコッと微笑むシャロ。

 その手にはちゃっかり自分の分の料理だけは確保してあった。



「……そうだな。このまま戻っても飯がないからな。自分の分くらい確保してくるか」



 バーグはテーブルのほうへと向かっていく。

 はじめは遠慮がちに料理を食べていたのだが、気がつくと冒険者たちと肩を組み、楽しそうに笑い合っていた。

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