第43話 vsバーグ

「おっ、やっと出てきやがったな」



 シャロがギルドの方に顔を出すと帝国騎士の一人、バーグが言ってくる。



「えっと、あなたは確かさっきに……」

「おう、フルールはうまく騙したかもしれないが、俺はそうはいかんぞ! 勝負をしろ!」

「あっ、えっ? わ、私はその……」

「お前は魔族らしいな。どうせ魔王につながっているんだろう? そんなやつを味方に引き入れるなんて、フルールもどうかしている。俺が倒してやる!!」



 ギルド内で剣を抜くバーグ。

 すると当然ながら、ギルドにいた冒険者たちがバーグに向けて殺気を発する。


 そして、シャロを守るように立ち塞がっていた。



「お前たちも魔族の味方をするのか!? つまりお前たちも魔王の手下なんだな!?」



 バーグのその言葉に、冒険者たちは一瞬怯んでいた。

 その間にバーグは、シャロに向かって斬りかかるが、その剣はあっさりはじき返される。



「ま、マリーさん!?」

「ギルドマスターに挑みたいなら、まずはその忠実なるしもべである、この私から倒すべきなんじゃないかしら?」

「えっ、ち、違いますよ? ただ、同じ職員として……」

「なるほどな。確かにそれは一理ある。お前程度一瞬で倒せなくては、最強のギルドマスターは倒せないわけだ」



 再びグッと剣を握り直すバーグと拳を握るマリナス。

 冒険者たちによってシャロは後ろに下げられる。

 ただ、心配になってマリナスの方へと向かおうとするシャロ。



「だ、駄目ですよ、マリーさん! 剣相手なんて危なすぎます……」

「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ」

「ふふふっ、余裕を見せているのも今のうちだな。俺はこう見えても実技に関してはフルールより好成績だった――」

「えいっ!」



 マリナスが一瞬でバーグの懐に入ると軽く一撃、殴り元の場所へと戻る。



「がはっ!?」



 口から血を吐き、壁を破り外へと飛んでいくバーグ。

 すでにマリナスは元の位置に戻っているので、彼の一番近くにいたのはシャロ……だった。



「うおぉ!? シャロちゃんが手も触れずにあいつを飛ばしたぞ!!」

「ま、まさか、気を操って?」

「シャロちゃんほどの実力者になったら、そのくらい余裕だろ」



 冒険者たちから歓声が上がるが、シャロはあたふたとしていた。



「わ、私は何もしていないです……。今のはマリーさんが……」

「あらっ、私も何もしていないわよ? シャロちゃんが私の身を案じて守ってくれたのね。ありがとう……」



 マリナスはシャロのことを抱きしめる。



「む、むぎゅぅ……、く、くるしいですよ……」

「あらっ、ごめんなさい……」

「そ、それよりもさっきの人は大丈夫なのですか?」

「えぇ、手加減はしたから命に別状はないと思うわ」

「……、やっぱりマリーさんがしたんじゃないですか!?」



 シャロが大声を上げる。

 しかし、その声も冒険者たちが上げる歓声にかき消され、周りに聞こえることはなかった。



「それじゃあ、あの壁を直しましょうか」



 マリナスが穴が空いてしまった壁を指さす。

 確かにこのままにしておく訳にはいかない。



「そうですね……。それじゃあ、緊急依頼を出させてもらいます。みなさん、このギルドを直してください。報酬は……、今晩の酒場の代金は私が持ちますから」



 シャロが紙を取り出して、新しい依頼をしたためていく。



『穴の空いたギルドの修復』

契約金 :なし

成功報酬:晩ご飯をごちそうします。

参加人数:制限なし

依頼主:シャロ・ティルラー



 掲示板に貼られた依頼内容を見た冒険者たちから大歓声が上がる。

 そして、ギルドは瞬く間に修理されていく。



「これで大丈夫ですね。あっ、あの人は――」



 ホッとしたシャロだったが、バーグのことを思い出してギルドの外へと慌てて飛びだしていく。

 すると、まだ意識が戻っていなかった。

 その額は少し血が出ていて、このまま放置しておくには少し怖かった。



「……よしっ!」



 シャロはバーグを担ごうとするが、全く持ち上がらなかった。



「どうしたの? ゴミ捨て場にでも捨てに行くの?」

「ち、違いますよ!? さすがにこのまま置いておくのは怖いので、上の部屋に運んで看病した方が良いかなって思ったのですよ……」

「この男にそんなもの必要ないと思うけど……、わかったわ。運んであげるわ」



 マリナスがバーグをつまみ上げる。



「ちょ、ちょっと待ってください……。その持ち方は……」

「大丈夫よ、ちゃんと雑に運んでいくから」

「ざ、雑にじゃなくて、丁寧に運んでください……」

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