第42話 新ギルド職員

「ふぅ……、少しびっくりしたなぁ……。一体、何のようだったのだろう?」



 フルールとの話を終えたシャロは、自室で深々と背もたれにもたれかかっていた。

 なるべくアルフには迷惑をかけないようにと言葉を選んでいたつもりだが、ちゃんとうまくいっていたかは不安だった。



「あらっ、何も問題なかったわよ。もしシャロちゃんに手を出したら吹き飛ばそうと思っていたけどね」

「あ、相手の人は他国の使者ですから、そんなことしたらだめですよ……」



 当然のように話に加わってくるマリナス。

 先ほどまでは姿すら見えなかったのだが、それにびっくりすることはなかった。

 というのも、過去に何度も似たような登場の仕方をされていたので……。



「もう、もっと驚いてくれて良いのに……」

「さすがに何度も同じ事をされたら、驚かなくなりますよ」

「わかったわ。次はもっと驚いてくれるように考えますね」

「……変なことはしないでくださいね」

「えーっ、だめなのですか?」



 マリナスが頬を膨らませる。

 しかし、シャロは口をとがらせたまま、きっぱり言う。



「それで何か用があったのですか?」

「えぇ、あのフルールというのは素直に引き下がってくれたが、部下の騎士たちが怪しそうでしたからね。自主的にシャロちゃんの護衛ですわ」

「さすがにそんなことしてこないと思いますけど、ありがとうございます。ですが、マリーさんもお仕事の依頼をしなくて良いのですか?」

「もちろんですよ。お金で困るような生活はしていませんから……」



 マリナスはにっこり安心させるように財布を取り出して、中を見せる。


 そこには銀貨が数枚しか入っていなかった。



「あ、あれっ?」

「ほらっ、やっぱりお金がほとんどないじゃないですか!! 全く……、この服に着替えてください!」



 シャロは自分が着ているものと同じ服をマリナスに渡す。

 白を基調としたワンピースと羽織る用の薄い青の服。



(私が羽織るとテーラーコートみたいですけど、背が高いマリーさんなら似合いそうですもんね)



 特に決まり自体はなかったので、職員は服装を統一させた方がわかりやすいかなと、ギルドっぽい服装を必死に考えて、薄い青の服を着た。


 さすがに大きい気はしていたけど、ギルド職員っぽいかなという結論から、ギルドマスターになってからはその格好をするように意識していた。


 その上の青い服をマリナスはぎゅっと抱きしめながら、嬉しそうな表情をする。



「こ、これは……シャロちゃんの服!? こ、こんな貴重なもの、着られないわ。しっかり厳重に保管しないと……。これ用の倉庫を買って、防犯監視用に罠をしっかり張って……くっ、金がいくらあっても足りないな」

「いえ、だから着てください!!」

「そ、そんな……、こんな貴重なものを着れるはずがないだろう……」

「それを着ないと一緒に仕事ができませんから……」

「一緒に……?」

「えぇ、マリーさんが私を守ってくれているせいで、お金がないわけですから私がマリーさんを雇います! ギルド職員になってくだされば、護衛を兼ねながらお仕事もできて、お金も手に入る。一石二鳥ですね」



 シャロが嬉しそうに微笑む。

 ただ、マリナスは全く別のことを考えていた。



(しゃ、シャロちゃんと一緒に働く!? そ、そんな……、遠くで見つめてるだけで満足だったのに、これは公認で手を出して良いって事? これは神様からのプレゼントかしら?)



 顔を赤くして、少し息を荒くしていたので、シャロが苦笑を浮かべていた。



「そ、その……、変なことをしたら解雇にするので、そんなことさせないでくださいね」

「あ、えぇ、わかりました。変なことはしませんよ。多分……」

「もう、多分じゃだめですよ! それじゃあ、これからよろしくお願いしますね」



 シャロが頭を下げる、その瞬間に突然部屋の扉がノックされる。



「しゃ、シャロちゃん、少し大丈夫か?」

「はい、どうしましたか?」

「そ、それがギルドの方にマスターに会わせろという男が来てまして――」

「わ、わかりました。すぐに行きます……」



 その言葉を聞いて、シャロはマリナスの方に視線を送る。



「誰でしょうか? 冒険者になりたいって方でしょうか?」

「いえ、おそらく違うでしょう。わざわざこんなところに冒険者登録する物好き……、いえ、変わり者はそうそういないですから」

「むぅ……、そ、それだとマリーさん自身が変わり者って言っていますよ?」

「あぁ、私は自分でわかっていますから。私は変わり者です!」

「そ、そんなに自信たっぷりでいわないでくださいよ!?」



 思わずシャロは突っ込みを入れてしまう。

 その様子を見て、マリナスは笑い声を上げていた。



「それよりも、あまりお客さんを待たせるわけにはいきませんので、そろそろ行きましょう」

「そうですね。いつでも、シャロちゃんを守れるように警戒しておくか……」

「そんな、いきなり襲われるようなことがあるはずないじゃないですか」



 シャロも苦笑しながら下のギルドへと降りていく。

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