第47話 聖幼女
聖女リナ。
聖女とは勇者や賢者と共に魔王討伐に参加すると言われている、聖属性に特化した女性のことを指している。
そして、聖皇国の神殿にいた先代聖女が御年九十七歳になり、さすがに次の聖女を決めないといけないということになって、白羽の矢が立ったのが現聖女リナであった。
うちに秘めた聖属性はかなりのものであったが、本人がまだ六歳と幼い少女であったため、否定的な意見も出てきたのだが、実際に彼女の浄化魔法を見た後は、否定的な意見を出した人らも一転。
彼女しか聖女にふさわしい人物はいない、と言いきるようになってしまう。
そして、聖女に任命されてしまったリナは、勇者と共に魔王を討伐することを期待されて、旅立ちを余儀なくされていた。
(どうして旅立つ必要があるの? 普通は勇者様が来るのを待って、それで一緒に旅立つものじゃないの?)
そんな疑問を浮かべながらも、気弱なリナは黙って旅に出ることしかできなかった。
リナが魔王を倒して、名声を上げてくるだろうことを疑わない聖皇国の人間の期待に応えるしかないとひとまず魔王国のすぐ側にあるユールゲン王国までやってきたのは良いが、そこで路銀がつきてしまった。
そして、完全に困り果てて町の中を歩いて回っていると、頭に角が生えた魔族? の人を見つけたので声をかける。
「あぁ、なんだてめぇ!?」
その迫力のある言葉にリナは思わず後退りしてしまう。
しかし、実際に話をしてみると怖いのは見た目だけで、とても優しい人だった。
だからこそ、リナは彼に聞いてみることにした。
「あ、あの……、えっと……、悪魔さん……」
「誰が悪魔だ!!」
「す、すみません……」
声をかけようとしても、肝心の名前がわからずに、思ったことを口にしてしまう。
するとジャグラが大声を上げてくるので、リナは思わず顔を真っ青にさせて謝っていた。
「す、すまん、驚かせるつもりはなかったんだ。ただ、俺は悪魔みたいな下等な種族ではない。魔族の幹部、ジャグラだ! 覚えておくと良い」
「じゃ、ジャグラさんですね。私はリナ……と言います。よろしくお願いします」
頭を下げるリナ。
そして、顔を上げると不思議そうに首をかしげていた。
「えっと、魔族さん……? はどうしてこんなところに?」
「見てわかるだろう? 農作業をしてたんだ!」
ジャグラの側には農具が置かれている。
しかも、側には畑。
誰が見ても何をしていたのかはっきりとわかる。
「えっと、魔族さんがどうして農作業を?」
「どうしてって、飯を食うには農業は必須だろう? それともお前は飯を食わないのか?」
リナが首を横に振る。
「私はご飯を食べるけど、魔族さんは――」
「俺たちも食うに決まっているだろう! それとも別のものを食うと思っていたのか?」
今度はリナは首を縦に振る。
「えっと、魔族さんたちはその……。人を襲って、その肉を――」
顔を真っ青にしながら、リナは話す。
ただ、それを聞いてジャグラがため息をはく。
「あのな……。どうして、他に飯があるのにそんな面倒なことをするんだ。人を襲うなんてへたをすると反撃されて、俺たちが殺されかねないんだぞ? 元々魔族は人には良い風に思われてないんだからな」
「そ、それじゃあ、どうして……?」
「んっ? なにがだ」
リナが肩をふるわせて顔を伏せる。
そして、ジャグラの顔を見て言う。
「どうして、私は魔王を討伐しろって言われたの? 魔族の人たちは悪くないんだよね? その王様も悪い人じゃないんだよね?」
「お前が魔王様を……? あはははっ、そんなことできるはずがないだろう? 魔王様は俺ですら歯が立たないほどの力を持っているんだぞ?」
「や、やっぱり、恐ろしい力で人を殺すんだね……」
「そんなことするはずないだろう? 第一魔王様には理由がない。むしろ、魔王様の力に怯えた人間たちが先に襲いかかってきたんだぞ? その火の粉を振り払っているだけだ」
「そ、それじゃあ、私はどうして……? 聖女は魔王を倒す勇者に力を貸すものだって――」
「そもそも、聖女って何だ?」
「聖女は高位の浄化魔法が使える人のこと……です。魔族の人たちは浄化魔法が弱点だからって」
「浄化魔法が? いや、そんなもの、簡単なものなら俺でも使えるぞ?」
実際にジャグラが弱い浄化魔法を使ってみせる。
ただ、それがリナには衝撃的だったようだ。
「う、うそ……。どうして……?」
「たかが魔法だろう? 確かに俺はそこまで強い浄化魔法は使えないが、人によっては強力なものも使えるぞ?」
「そうなんですね……。それじゃあ、私は無理に戦わなくても……」
リナは安堵からか、その場に膝をつけていた。
すると、その瞬間にリナのお腹が鳴る。
その大きな音にリナは顔を真っ赤にしていた。
「なんだ、腹でも減っているのか?」
小さく頷くリナ。
それを見たジャグラは頭をかきながらため息交じりに答える。
「わかった。ちょっと待ってろ」
ジャグラが立ち去ったかと思うと、すぐに真っ赤な木の実を一つ持ってきた。
「ほらっ」
それを投げてよこす。
リナは慌てて、両手でそれを受け止めると不思議そうに首をかしげる。
「えっと、これは?」
「食ってみろ」
言われるがまま、その木の実を口にする。
「あっ、おいしい……」
「だろう。この地域の特産らしい」
ジャグラも同じようにその木の実を食べる。
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