第38話 安定
旧ドジャーノ領、現ミュッカ領はポポルとジャグラのおかげで随分と落ち着きを取り戻していた。
ただ、領主として最初に任せたときは大変だったと言っていた。
「全く、私は子供じゃないのにね!」
ポポルが怒りをあらわにしながら、俺の前の席でお茶を飲んでいた。
「でも、今ではしっかりと領主として過ごしているんだろう?」
「うん、アルフ王子がジャグラを置いてくれたおかげよ。ほらっ、ジャグラって見た目がすごく魔族でしょ? だから脅すにはちょうど良いのよ」
にっこりと不気味な笑みを浮かべる。
まぁ、あの容姿から実は言葉が悪いだけでお人好し……なんて誰も想像がつかないだろうな。
「最初はかなり反発されたんだからね。元貴族があのドジャーノだったから……」
「かなりの悪政を敷いていたからな。その分普通にしているだけで評価がうなぎ登りだっただろう?」
「それはそうね。あと、ジャグラが畑の手伝いをしたり、困ってる老人に手を貸したりしてくれているおかげだよ。他にもシャロが新しく冒険者ギルドの支店を作ろうとしているみたいね。領地ごとにあった方が連携がとれるから……という理由みたい」
「まぁ、冒険者ギルドの運営はシャロに任せているが……、シャロ一人でそこまで手が回るのか?」
「問題はそこみたいね。今、人を募集していたわ。ちょうどドジャーノを倒したことで、私の領地にいる人たちがよそに仕事を求めていくようになったから、あっさり誰か見つかると思うわよ」
「そうか……。とりあえずは大丈夫そうだな。となると、次の問題か……」
「そうね……。ドジャーノがいなくなったことで西側に別の貴族が治める領地と接することになるよ。ミグルド、元騎士で功績を挙げて貴族になった人物ね。その単純な力はイグナーツに及ぶかもしれないって言われている人よ。でも、イグナーツの方が強いけどね」
さりげなくイグナーツの肩を持つポポル。
でも、力が強い相手か……。それはそれでやっかいだな。
「でも、元騎士ってことは国に忠誠を誓っていたんだろう? そんなやつがどうしてこの国を裏切るようなまねをしているんだ?」
「さぁ、そこまでは知らないよ。なにか不満があったんでしょうね」
ポポルが首を横に振る。
「あとは、そろそろ帝国側の動きが気になるよ。冒険者たちを送り込んできたんだよね? シャロがしっかりと手綱を握っているから、不利な状況には陥っていないけど、今のままだと次の手を打ってきそうね」
「……次の手か。冒険者がだめとなると、今度は帝国直属の騎士が来るだろうな」
冒険者は基本、自由な何でも屋の職業だ。
期日が定められていない依頼なら、気が向いたときにやるし、確実にこなせない依頼は破棄することもできる。
幾ばくかの費用を取られるので、そこは自己責任になるが――。
ただ、金次第ではあっさり裏切ることも考えられるので、信頼できるほどの人らではない。
その分、どこの領地に行ってもおかしくない人たちになるので、相手から警戒される恐れも少なくはなる。
一方、きっちりとその国の規律に支配されている騎士たちは、いかにもこの国を支配しに来た、といっているようで相手に不信感を与えてしまう。
その分、相手からしたら騎士の言葉は信用できるものだった。
だから、冒険者でだめなら、次に打てる手は挨拶とかそういった名目で騎士たちがこの国に来る……と予想はできる。
やっかいな相手には違いないが――。
まぁ、相手が警戒してきそうなジャグラはこの町には置いていない。
これで、魔族は魔王くらいしかいないので、そうそうバレることもないだろう。
魔王も自分の命を狙われるとわかっていて、正体がばれるようなことはしないし、シャロは見た目から絶対に魔族とはわからないからな。
「……なんとか帝国の攻撃を抑えたいね。今のままだと襲われて、滅ぼされるだけだし……」
「そうだな。そのためにもこれからやってくる騎士に、いかにこの国を襲うのが悪手かを伝えるしかないな。今だとどこにいるかわからないマリナスが俺たちについていること……。その結果、この国を襲ってきたとしても、兵の被害が多く、利益はない……。何の意味もない行動と言うことをな」
「……大変そうね。来る相手によっては即戦争になりそう……」
「まぁ、いざというときは任せるからな」
「もっと早くに呼んでよ……」
苦笑を浮かべるポポル。
そして、そんな俺の予想通りで、部屋の外から兵士が声をかけてくる。
「アルフ様、今よろしいでしょうか?」
「どうかしたか?」
「はい、帝国より使者の方がいらっしゃいました。どのように対応させてもらったらよろしいでしょうか?」
「いつもどおり、謁見の間に通してくれたら良い」
「そ、それが、かなりの数の騎士を連れておりまして……。皆、鎧や剣といった装備をつけておりまして――」
「なるほどな……。それならば、武器だけ預かると良い」
「はっ、かしこまりました」
「それじゃあ、私はこのあたりで――」
ポポルが部屋から出て行こうとするので、その肩をつかむ。
「遠慮しなくて良いから、一緒に行くぞ」
「い、いやだよ。絶対によくないことになるんだもん」
「大丈夫だ。いきなりそんなことになるはずがないだろう」
嫌がるポポルを引き連れながら俺も謁見の間へと向かっていく。
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