ブライトの様子
隙間風が通る館の中で、貴族のブライトは苛立ちを隠しきれない様子だった。
「まだか! まだ館は直らないのか!」
「も、申し訳ありません。まさかこれほどの大穴が空くとは思っていませんでしたので……」
「くっ、あのマリナスめ……。壊したなら直していくくらいしていけ!!」
もう誰もいない、穴の空いた壁へ向かって悪態をつく。
「もうすぐ工事のものが到着しますので、今しばらくお待ちください」
「わかっておる。……それと、あれはどうなった?」
「……あれ、とは?」
「王都に戻ってきたアルフ殿下のことだ。どうやらドジャーノとやり合ったと聞いたが――」
「それなら、アルフ様がドジャーノ様を下したと聞きました。詳細はまだ私の耳には入ってきてませんが……」
「そうか……。国王はひどいものだったから離れたが、アルフ殿下がまともな人物なら再び、すり寄るのもありだな」
ブライトは蓄えているあごひげを触りながら、にやり微笑む。
「そういえばアルフ殿下の側で魔族の姿を見たという報告を受けましたよ」
部下のその言葉にブライトの動きが固まる。
「な、なんだと……」
ギリギリと唇をかみしめ、こめかみにしわを寄せ、手をきつく握りしめる。
「どうして魔族が我が国にいるんだ!!」
手元にあったコップを部下に向かって投げつける。
「わ、わかりません……。さすがに見間違いか捕虜として捉えたのか、のどちらかだとは思いますが……」
「すぐに調べて参れ!! いや、私も行く! 兵の準備をしておけ!」
「は、はっ!!」
ブライトは怒りのまま、部屋を出て行く。
そして、自室に戻るといったん感情を落ち着かせる。
(……冷静に考えると王子には魔族と組むだけの理由があるな。すでに滅びかけている国。貴族たちは皆裏切り、王国は、すでにほとんど資金が尽きている。こんな状態でできること……。魔族にこびへつらって、その力を借りることくらいだな。あのくそ魔族に……)
魔族のことを考えるとブライトの怒りは更に増していく。
それもそのはずで、ブライトの家族は魔族に殺されていた。
今は妾とその子がいるので、跡継ぎには困っていないが、その怒りだけはしっかり持っていた。
「理由はわかる。ただ、王子が本当に魔族と組んでいるのなら、そんな王子を殺してでも止めるのが、私の仕事だな。間違った国は決して民のためにならない。真に民のためを考えるなら魔族と組むのだけはだめだ! 奴らは人間のことをおもちゃのようにしか見ていない。絶対に相容れない存在なんだ!」
ゆっくり立ち上がると、窓の外を眺める。
そこには作物の育った田畑と人が行き交う通りが見える。
皆、平穏な生活を送っている。
これを守るためにも私が頑張らないといけない……。
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