魔族国の状態

 魔族たちが住むユールゲン王国南に位置する魔族国。

 暴力と殺戮が日常と化した荒れ果てた地……と思われているが、実際は豊かな田畑とのんびりした魔族たちが暮らす平和な地であった。


 ただし、力がすべて……という部分は変わらずに、何かトラブルがあったら力比べをして、より強い人の意見を尊重する……という明確な規定がある。


 野蛮な解決方法に思われているが、殺し合うまでやるわけでもなく、しっかりと治療魔法を使えるものをそばに置いての力比べなので、よほどのことがない限り危険はなかった。


 そして、今日も魔族国では平和に魔王に挑む魔族たちであふれかえっていた。



「今日こそはおまえを倒して、俺が魔王になってやる!!」

「うむ、かかってくるがいい」



 ぐっと手を握りしめた少年が魔王に対して勝負を挑む。

 ただ、それを一瞬で蹴散らしてしまう魔王。



「がははっ、我に挑むには百年早かったようだな」

「ぐっ……、つ、次こそは……」

「うむっ、頑張るといい。では、次!」



 少年は治療を受けた後、とぼとぼと帰って行く。

 その途中にいる魔族に治療費も兼ねた魔王挑戦費を払いながら――。


 最近は部下がほとんどの仕事をするようになってしまったので、暇を持て余していた魔王が思いついた娯楽。


 意外と挑戦者が多く、気がつくと魔王がする仕事の中でメインのものとなっていた。

 逆に挑戦者が多すぎるせいで忙しくなりすぎているほどだった。



「おやっ、今度は人間か?」

「何が人間か? だ!! よくも罪もない人間たちを奴隷として扱いやがって……」

「いや、彼らは罪を犯したものか、貧しさのあまり自ら奴隷に志願したもので――」

「問答無用!! 死ねー!!」



 たまにこういった風に話を聞かない人間族の挑戦者が紛れ込んでくる。

 元々魔族国は特別入ることを制限しているわけでもない。


 ここまで来るのが大変なので、人間が来ることはほとんどないがやってきたら、皆一様に魔王へと挑戦してくる。


 魔族を見た瞬間に戦闘態勢をとる人間たちだが、逆に魔王の元へと案内されるがために拍子抜けすることが多いのも事実。

 また、容赦なく魔族に襲いかかってくるものもいるが、その辺に歩いている魔族たちの個々の能力もかなり高いので、あっという間に返り討ちにされていた。


 当然ながらそういった相手からも治療費等をもらうので、魔王は意外と懐具合が潤っていた。


 そういった事情もあり、意外と人間たちが来ることもあり、魔族国でも同じ硬貨を使用するようになっていた。

 もちろん、奴隷以外にも普通に住んでいる人間族もいる。


 ただ、どうしても力が全ての魔族国。

 力のないものが陰で虐められることはどうしてもあった。


 魔王もなんとか対策をとろうとしているが、なかなかいい解決方法が思い浮かばなかった。

 でも、それがユールゲン王国との交友によって事態が変わっていた。


 シャロがあれだけ馴染んでいるわけだ。

 他の虐められているやつらも、あの国でなら幸せに暮らすことができるだろう。


 問題があるとすれば、魔族国と同様に他国から狙われる国になるかもしれないこと。

 それを危惧して、滅びかけていたかの国を成長させようと、器用に何でもこなすことができるジャグラを送り込んだのだが、それが良いように作用している。


 しかし、まだあの帝国の猛攻には耐えられないだろう。

 せめてあの国が、領地内の全ての貴族をまとめ上げて、一致団結できるほどにならないと……。


 ただ、シャロとジャグラ。あとは三人の猛者たちがいるから問題ないだろうな。

 それに、あの国にはアルフがいる……。

 たまに何を考えているかわからないときがあるが、それでもどこか惹かれるものがあるのだろう。

 あのジャグラですら、彼の指示をおとなしく受けている。


 少し期待したい相手だ。


 でも、もし攻め落とされてシャロに危険が及びそうになったそのときは――。



「まぁよい。くくくっ、久々に本気を出して帝国を襲うとするかな。今たたいておけば、しばらくはユールゲン王国を襲おうなんて考えないはずだからな」



 魔王はにやり微笑みながら、王座に座り込んでいた。

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