ミグニスト帝国の様子

 ユールゲン王国の北に位置するミグニスト帝国。

 世界最大の領地をほこり、その人口もどの国よりも多く、強大な国であった。


 そして、その中央に位置する首都、バルダスでは苛つく皇帝がフルールに声を出して当たり散らしていた。



「遅い!! もう兵を派遣してから一月以上経っているぞ! どうしてマリナスの情報が何一つ入ってこないのだ!」

「も、申し訳ありません……。定期的に冒険者達とは連絡を取り合っているのですが、何も情報は入ってこない状態でして――」



 正確には『ギルドマスターがとても可愛いんですよ!!』とか、『世界最強はギルドマスターじゃないのか!!』とか『シャロちゃんはぁはぁ……』とか、当てにならない情報は入ってきていたが、こんなものを報告してはフルール自身の首が飛びかねない。


 だからこそ、連絡係の彼女はひたすら皇帝に向かって頭を下げるしか出来なかった。



「これだけ時間がかかるなら、さっさと攻め滅ぼしてしまった方が良かったな」

「恐れながら、陛下は今まであの国を攻めあぐねていたことをお忘れでしょうか? あの国にイグナーツ、ポポル、マリナスの三人が揃っていると、たとえ勝てたとしても、こちらにも甚大な被害が及んでしまいます。それで手に入るのが、あの貧乏国家のみ……。しかも常時魔族が襲ってくる危機にも見舞われるのですよ。それならば、マリナス達三人を仲間に入れ、大人しくあの国を降伏させて、今同様に魔族の防波堤としての役割を果たさせることの方が重要かと――」

「わかっている。だからこそ、一年の猶予を作ったのだ。しかし、ここまで効果がないとわかると、冒険者を送り出しているだけ無駄であろう?」

「ですが、冒険者自体は前金として、金貨を一枚握らせただけで喜んで彼の地へと出向いてくれました。あとは、あちらの国のギルドがどうにかしてくれているのでしょう」

「そうか……、これ以上金はかからないのか。しかし、ギルドでの仕事がメインになって、捜索の任務が疎かになっているのではないか? そろそろ、確認へ出向いた方がいいのではないか? 現地冒険者達の様子を見るのも合わせて――」

「かしこまりました。では、この私自ら赴かせていただきます」

「うむ、すぐに行くと良い。私の方もいつでも派兵できるように準備しておこう」



 どうにも戦争をしたがり過ぎてダメだな……。

 そんなことを考えながらフルールはユールゲン王国へ向かう手はずを整えていた。


 すると、いつの間にか部屋の中に一人の男が入ってきていた。

 短めの金髪と王国の騎士をあわらす純白の鎧。そして、細身ながらも体格の良いその男はフルールを見て、ニヤリ微笑んでいた。



「とんだ不幸だな、フルール」

「ハーグですか……。私は見ての通り、出発の準備で忙しいのですが?」

「それにしても、帝国の学園では主席のお前も今や外交官とはな。てっきり騎士を目指すのかと思ったぞ」

「これが私に合った職ですからね。剣を振るうのは性に合いませんので――」

「ははっ、確かにな。むしろ俺にはこれしかなかったから剣士をしているわけで……。そういえば同期にあのユールゲン王国の王子もいただろう? お前と常に成績を競い合っていた……。いや、あいつの方が成績は上だったな。ただ、帝国出身という理由からお前が主席になっていたが――」

「そうだ……。やつめ、常にやる気のなさそうな顔をしていたくせに……」



 フルールは悔しそうにグッと手を握りしめていた。

 ただ、冷静に呼吸を整えると普段通りの口調に戻す。



「まぁ、あんな貧乏国家を引き継がなくてはいけないと分かっていたのなら、やる気のない態度もよく分かる。やつには同情の気持ちも浮かぶよ」

「……そうだな。遅かれ早かれ滅ぶしかない国だもんな。我が帝国によって滅ぼされるか……、内戦によって滅ぶか……、外敵によって滅ぼされるか……。いくら強い奴らを集めたとしても、個々の力だけじゃ限度がある訳だからな」

「あぁ、そうだな。さっさと降伏させてやると良い。それもお前の仕事なんだろう――」

「言われずともわかっている。だからこそ、今回は有無を言わせないつもりだ。当然ながらお前にも働いて貰うからな、ハーグ」

「へっ!?」



 それからまもなくフルールが出発する。

 その側に幾人かの帝国騎士達を引き連れて……。

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