第39話 謁見
「アルフ殿下、お目通りの許可をいただきありがとうございます」
帝国から来た使者は、以前もやってきたフルールだった。
彼女は俺に対して頭を下げてくる。
その後ろには鎧を着ている帝国兵たちが、フルールと同じように頭を下げていた。
「いや、気にするな。皇帝陛下にはこの国の復興に力を貸していただいている。この恩を思えばなんてことはない」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「それより面を上げてくれ。この度は何用で来られたのだ?」
「はっ、この度は冒険者たちがしかとアルフ殿下のために働いているかの視察に来させていただきました。彼らも冒険者といえど、我が帝国代表。殿下の国に迷惑をかけていないかを調べさせていただこうと思いまして――」
何の疑念も抱かせないように、淡々と答えるフルール。
その姿には驚きすら感じるほどだった。
「そうか。冒険者たちは我が国のギルドマスターによって、様々な依頼をこなしてくれている。視察というなら、そのギルドマスターに案内させよう。ポポル!」
「うん……はい。なんでしょうか?」
いつものしゃべり方で話しそうになるが、慌てて丁寧な言葉を使い始める。
さすがに帝国の使者相手だと、隙を見せないように気をつけるんだな。
「ギルドマスターを呼んできてくれ。この時間ならまだ、ギルドで仕事をしているはずだからな」
「はっ、すぐに……」
ポポルが敬礼をした後に部屋を出て行く。
その様子を表情一つ変えずに、その様子を見るフルール。
さすがだな……と、感心してしまう。
ただ、後ろにいる兵士たちが眉をひそめている。
迷惑だと思っていることがよくわかる。
まぁ、自国の冒険者にマリナスについて話を聞きたいわけだからな。
ギルドマスターは明らかに俺の部下であることはわかるからな。
しかし、本当に表情に出やすい騎士たちだな。少しはフルールを見習ったらどうた……。おやっ?
騎士たちの中に見知った顔の青年がいた。
確か……バーグ……だったか? 少し違う気もするが、そんな相手だったはずだ。
知っていたから、手を抜く……なんてことはしないので、結局意味がないけどな。
◇
しばらく待つとポポルがシャロと、あと見たことのない冒険者を一人連れてやってくる。
珍しいな、シャロが護衛を連れてくるなんて……。
ただ、一国の冒険者ギルトのマスターと言うことを考えたら何もおかしいこともないか。
「そ、その……、さすがアルフ殿下……。底知れぬ力の持ち主の方をギルドマスターに据えられたのですね……」
フルールが乾いた笑みを浮かべる。
えっと、シャロが底知れぬ力……? 魔族であるということがバレたのか?
いや、そんな感じではないか……。
どちらかといえば、シャロではなくて、もう一人の護衛の方に視線が向いていた。
あぁ、確かに俺も見たことのない冒険者だが、強そうな体つきだもんな。
服の上からでもはっきり見て取れる筋肉の隆起。
顔は兜で隠し、その表情は見ることができない。
ただ、シャロの方をじっと見ていることだけはわかる。
何だろう……。心なしか顔が赤いような……。
そこでふとある人物が思い浮かぶ。
「マリ……」
そんな俺の言葉を塞ぐように男は声を発する。
「お初にお目にかかります。私は見習い冒険者のオズマリーです。今日はこちらにおられるギルドマスター、シャロ様の護衛で付き添いました」
淡々と言葉を発するオズマリー。
少し女性っぽい声を、筋骨隆々とした男が発したことで一瞬フルールたちは驚いていた。
ただ、それ以上突っ込んでこようとはしなかった。
それにしても、マリナス……。姿を変えてまでどうして……。
いや、シャロに何かあったときのために自ら志願したんだろうな。
念のために姿は変えて――。
「えっ、そっちの子が!?」
騎士から驚きの声が上がる。
しかし、すぐにフルールにたしなめられていた。
「も、申し訳ありません。部下が殿下の民にご無礼を……。このお詫びはさせていただきます故、何卒お許しを……」
「いや、そこは気にしていない。それよりも改めて紹介させていただく。こちらが我が国のギルドマスター、シャロ・ティルラーだ」
「あ、あの……、は、初めまして。しゃ、シャロ・ティルラーです……。ど、どうぞよろしくお願いします」
シャロが恥ずかしそうに頭を下げる。
すると、何人かの兵士がそれにつられるように頭を下げる。
「シャロ……。ま、まさか、あなたが世界最強のギルドマスターと噂のシャロ様ですか……。お初にお目にかかります。私はフルール。帝国大使を務めています。この度はギルドの視察に同行してくださるとのこと。本当にありがとうございます」
「えっ、えっ!? せ、世界最強? わ、私が?」
困惑するシャロ。
当然だろうな……。俺もそんな噂、始めて聞いた。
まぁ、冒険者の面々がシャロのことを崇拝しているのは知っていたが――。
でも、いざというときに魔王をけしかけられることを考えると、最強でもおかしくないか……。
「わ、私はただの雑用係です……。あ、あと、ギルドの酒場で料理も作っています。是非食べていってくださいね……」
「あ、あぁ……」
なんだか、テンポをつかめずに言葉に詰まってしまうフルール。
おそらく彼女のイメージと大分かけ離れていたのだろう。
「殿下、此度は本当にありがとうございます。では、私どもはこれで――」
「あぁ、ゆっくり見ていってくれ。泊まるところが必要なら、城の中に準備させるが?」
「いえ、町の宿を取らせていただく。では、これで失礼します」
フルールたちが出て行く。
それを見送った後に、俺は自分の部屋へと戻っていく。
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