第36話 ドジャーノの処遇

 魔王は相変わらず冒険者ギルドの中にいた。

 どうやら、シャロの手料理を食べて満足しているようで、機嫌は良さそうだ。



「魔王、少しいいか?」

「……なんだ、我は今忙しいんだが――」



 いや、むしろ何もしていないじゃないか……。

 シャロの姿を目で追っている魔王に、俺は思わず呆れた表情を浮かべる。



「……まぁ、シャロを見たままでもいいから少しいいか?」

「べ、別にシャロを見ているわけじゃないぞ! か、勘違いするなよ」



 魔王が少し慌てた様子を見せていた。

 そして、落ち着くように軽く咳払いをする。



「コホンッ、そ、それで一体何のようだ?」

「あぁ、実はジャグラに聞いたんだが、魔族達には中年の男も奴隷として売れるのか?」

「もちろんだ。人間族なんだろう? 人にもよるが、買いたいという奴はかなりいるな。……もしかして人身売買でも始めるのか?」

「いや、犯罪者の待遇を考えていてな。奴隷として売れるなら金にもなるからいいと思っただけだ」

「……あぁ、この国をおとしめた貴族のことか。もちろんだ。我の元に連れてきてくれたら、そこまで高値は出せないが買い取ってやろう」

「あぁ、助かる。それともう一点、相談があるが――」

「わざわざ貴族のことを話したと言うことは戦いが近いんだろう? 我も兵士の準備をしておこう。これでいいか?」

「ありがたい。なるべく俺の兵だけでいけるようにはするが、いざというときは頼んだ」

「あぁ、任せておけ」



 魔王の頼もしい回答を聞いた俺は一安心する。

 これであとはポポル達が無事にドジャーノ領の民を連れて帰ってきてくれたら解決だな。





 数日後、ポポル達が戻ってきたとの報告を受けたので、俺はジャグラや魔王、シャロと一緒に門の前に出て出迎える。

 しかし、なぜかポポルの後ろにいるのは民達ではなく兵士。

 しかも捕縛されたドジャーノの姿すらあった。



「アルフ様、帰ったよ!」



 ポポルがにっこり微笑む。

 ただ、俺は何も理由が分からずに、一瞬呆けてしまったが顔には出さないようにした。



「よく戻ってきた。俺の策通りに無事ドジャーノを捕まえてきてくれたようだな」

「うん、やっぱりここまでがアルフ様の策だったんだ……。なんかびっくりするくらい簡単に捕まえられたから驚いたよ」



 いやいや、そんなところまで予想出来ないし……。

 というより、ここまで楽に捕まえられるならもっと早くにしておくべきだったか?

 しかし、下準備も必要だからな。

 結局このくらいの時間になっていただろうな。



「これもポポル達の力のおかげだ。ありがとう」



 俺が軽く頭を下げるとポポルは嬉しそうにはにかんでいた。



「そ、そんなことないよ……」



 その次に俺はドジャーノの方へと振り向く。



「さて、それでドジャーノ。我が父から領地を任された貴族でありながら、民達をいじめ、あまつさえ兵を率いて反乱する。これは一体どういう了見なんだ」

「そ、それは……。私が腐りきった王都から民を救おうと……」

「腐りきったのはどっちだ! とにかくお前にはこの反乱の責を取って貰う」

「もちろん捕まったときに覚悟している。私を殺すのか?」

「いや、お前は殺さない。むしろその労力も無駄だ」

「な、ならば……」

「そこで魔王の登場だな。約束通り引き取ってくれるんだな?」

「もちろんだ。これだけ生きのいい人間なら奴隷として、そこそこの値段で売れるだろう。売れた金額はまた渡しに来る。もちろん手数料は頂くがな」

「あぁ、それで構わない。それじゃあ、連れて行ってくれ」

「ちょ、ちょっと待て! ま、魔族に連れて行かれるなんて一体何をされるか……。せ、せめて今のまま殺して……」

「いや、お前は殺す価値すらないな」



 それだけ言うと魔王はドジャーノを引きずって城の方へと戻っていった。

 そのまま転移魔法を使うのだろうな。

 ……二人でも行けるのか?

 少し不思議に思いながらも今度はポポルの後ろにいる兵達の前に立つ。


 彼らは少し青ざめた顔をして怯えていた。



「ポポル、こいつらは?」

「うんとね、ドジャーノを捕まえる前に私たちに降ってくれた兵だよ。約束をしたから命だけは助けて欲しいな」



 ポポルが命だけ……の部分を強調してくる。


 まぁ、さっきの魔王に連れて行かれたドジャーノも命は助けているわけだもんな。

 もっと酷い目に遭うかもしれないが――。



「わかった。それじゃあ、お前達はイグナーツの配下として一から鍛え直して、今度こそは我が国のために働いて貰う。異論はないな!」

「は、はいっ! へっ!?」



 思わず返事をした兵士たち。

 しかし、訳が分からずに声を漏らしていた。

 そして、兵の一人がおどおどと手を上げて聞いてくる。



「その、質問よろしいでしょうか?」

「あぁ、もちろんだ」

「私たちの処罰については……?」

「処罰? 兵はその主に付き従うものだろう? しっかりと仕事をこなしたお前達になぜ罰を与える? 反乱を企てたのはドジャーノだけだ。それともお前達も反乱を企てていたのか?」

「と、とんでもございません! ですが――」

「そこまで罰を与えて欲しいなら、イグナーツにより厳しい特訓をして貰おうか」

「がははっ、やる気のある兵士が増えてくれて頼もしいですな。私に任せてくだされば三日三晩戦い続けられるように鍛えてやりますよ!」

「あぁ、よろしく頼む。それとポポル、これだけ一気に兵が増えたんだ。すぐに金がなくなる。ドジャーノからは金品を回収しておいたんだな?」

「もちろんだよ。ドジャーノのやつ、戦を仕掛けるときも金品を運んでいたからね。簡単に回収できたよ」

「よし、とりあえずここにいる皆は一兵卒からやり直せ! もちろん泊まり込みでだ! それが罰だ。上がってた給料も下がるから覚悟しておけ!」

「えっ、給料までいただけるのですか!?」



 その部分で驚かれてしまう。



「いや、兵として働くんだろう? なら必要ではないのか?」

「いえ、ドジャーノ様の元では税金の免除と三食が付いて、生活するには兵士になるしかなかったので仕方なく――」

「……よくそれで反乱しなかったな」



 思わず呆れて口を尖らせる。



「流石に私一人ではかなりいる兵士には立ち向かえず……」



 なるほどな。

 食い扶持がなくなったやつが兵になりに来る。

 そして、兵の数を増やし続けていたのか。


 数が多ければ多いほど、反乱することも出来なくなる。

 しかも、食事だけ与えておけば金はいらない……。


 ただ、それだと兵の士気はすごく低いことになりそうだな。



「わかった。ここではしっかり金も払うし、休みも与える。英気を養ってしかと訓練に励んでくれ」

「は、はいっ! かしこまりました!!」



 兵士たちは俺の方へしっかり敬礼をしてくる。

 それを見て少し満足していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る