第35話 vsドジャーノ(その3)
(これじゃあどっちが悪役か分からないわね。確かに戦意をなくしているからいいけど……)
ポポルは苦笑を浮かべながら、穴に飛び込んでいく兵を眺めていた。
(でも、ただ眺めているだけって言うのも芸がないね。……そうだ)
ポポルは何かひらめいたようでゆっくりマリナスの隣へと向かっていく。
その間も穴に飛び込む兵士たちが着実に増えていった。
穴の中からは「な、なんで降りてくるんだ!?」「と、とびこむな。もう人が入れない――」とかいう阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。
「マリナス、ちょっと待って」
「あらっ、ポポルじゃない? どうかしたの? これからあのゴミ達を捨てるところだけど……」
「うん、そこを私の顔に免じて許してあげてくれないかな?」
「……どういうこと?」
「それはこういうことよ」
ポポルはまだ穴に逃げ切れていない兵に向けて声を出す。
「もし、私たちに降伏する人がいたら先に言ってね。その人にはマリナスから攻撃をさせない。これは参謀長ポポルが約束するよ。でも、もしそっちに残るというなら結果は分かってるよね?」
にっこり微笑むポポル。
すると残った兵士たちは武器を捨て、すぐにポポルの下へと走っていくと頭を垂れていた。
「うん、これで兵力を一気に増やすことが出来たね」
「でも、まだあの中にゴミが捨ててあるわよ? 埋めてしまう?」
マリナスの視線が穴の方へと向く。
すると穴からドジャーノの声が聞こえてくる。
「お、お前達、どけ! さっさと私の足場になれ!!」
「む、無理ですよ、ドジャーノ様……。ただでさえ身動きが取れないのに……」
「くっ、使えん奴め! おいっ、外にいる奴、早く私を引き上げろ! 引き上げたら給料の上乗せを検討してやっても良いぞ!」
(相変わらず自分勝手ね。そこは金を渡してでも助かるべきなのに、検討だなんて……。どうせ上げる気なんてないんだね)
ポポルは苦笑しながら穴をのぞき込むと、直接声をかける。
「見苦しいよ、ドジャーノ。もう外には兵は残っていないよ。みんな降伏したもの……」
「お、お前は……ポポル!? ぐぐぐっ、さてはこの大穴もお前の策だったんだな。ここを通ると見越してこんな罠を……」
悔しそうにドジャーノは口を噛みしめていた。
それはたまたま……というわけにもいかず、ポポルは曖昧な返事をする。
「え、えぇ、まぁ、そうだよ。その穴を掘るように指示を出したのは私だよ」
「ぐっ、卑怯な……。戦うつもりならまともに戦え……」
「それをあなたが言うんだ……。それよりも他の兵士さん、いつまでドジャーノに付き従ってるつもりなの? このドジャーノはその功に見合うものを返してくれたかしら?」
ポポルの言葉に穴の中にいる兵士たちがざわつき出す。
そして、それがドジャーノは気にくわなかったのだろう。
「だ、黙れ! こいつらは私がいるから飯が食えているんだ! 私がいなくなるならこいつらも死ぬしかない! 当然だろう!」
「まぁ、死にたいのなら、私は気にしないけど……。もうすぐここにマリナスが砂を入れるわよ。つまりあなたたちは生き埋めね」
「お、お前が私の領地に来たときに助けてやった恩を忘れやがって……」
「そんなことして貰った覚えはないけど? どちらかと言えばアルフ様の方がしっかり助けてくれるよ? 一度は刃向かった私を元の……参謀長として雇ってくれているんだから……」
「ぐぐっ……」
ドジャーノが言葉を詰まらせる。
すると兵士の一人がゆっくりと手を上げる。
「お、俺……、あんた達に降る。助けてくれ……」
それを見たポポルはにやりと微笑む。
もう命が大切なら手を上げるしかなかった。
しかし、周りの目がある以上、中々自分からは行動出来ない。
(一人動いたとなると後は総崩れだね……)
ポポルの予測通りに次から次へと穴の中から手を上げてくる。
そして、気がつくとドジャーノ以外は全員手を上げている状態になっていた。
「わかったよ。それじゃあ、これからロープを下ろすから助かりたい人は捕まってね」
ポポルがサッと手を振るとイグナーツが長い一本のロープを持ってきて、それを穴の中に垂らした。
すると、我先に助かろうと何人もの兵士たちがロープにしがみついてくる。
「じゅ、順番に……。そうじゃないとロープを引き上げられない……」
「いや、大丈夫だ。マリナスも手伝え!」
「えーっ、私の仕事は終わったと思ったのに……」
マリナスは不服そうにイグナーツの体に一瞬触れる。
すると一瞬だけイグナーツの体が光った。
「これでいいわよね?」
「あぁ、もちろんだ。やっぱりお前の身体強化魔法の威力はすごいな」
「ふんっ、あなたにかけないとポポルが怒るからね。特別よ」
「はいはい、分かってるよ」
イグナーツは不服そうにするマリナスを軽くあしらうと、ロープを持つ手に力を込める。
すると大量の兵がそのまま引き上げられていた。
そして、ポポルの隣に移動したマリナスが一言。
「もし、降伏が偽りなら……、わかってるわね?」
拳を作りながらにっこり微笑むと、青ざめた表情の兵士が何度も頷いていた。
そして、それを数回繰り返すと、最後にはドジャーノが一人残されていた。
「最後はあなただけね、ドジャーノ。あなたは生き埋めになるの?」
「ぐ、ぐぬぬっ……」
悔しそうに口を噛みしめて、最後にはがっくりと手を地面についていた。
「わかった。私の負けだ。助けてくれ……」
◇■◇■◇■
さて、今頃ポポル達が門から民を逃がしているはずだ。
俺は魔王達を説得するか。
問題となるのは、ドジャーノの精鋭をどう排除するか、とドジャーノ自身の処遇だ。
国家反逆を企てたわけだから、その処分は死罪を置いて他にない。
ただ、殺してしまっても何の得にもならないんだよな……。
「はぁ……、もっと、金になって罰にもなる方法はないものか……」
「うん、なんだ? 拷問の仕方でも探しているのか?」
冒険者ギルドを目指していると突然話しかけられる。
隣を振り向くと、そこにいたのは背中にたっぷりと魔物を背負ったジャグラだった。
「いや、拷問をするのも金が掛かるだろう? 出来れば金はかけたくない。むしろ稼ぎたいんだけどな……」
「それなら売り払えば良いんじゃないか? 犯罪奴隷として――」
「……中年男がそれほど高い値段で売れるのか?」
「そうだな。俺たちの国ならば、そこそこの価格で売買されているな」
金になるのか……。
これは魔王に相談すべきことだな――。
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