第34話 vsドジャーノ(その2)
「よし、全軍進め!!」
ドジャーノの号令で兵士たちは王都へ向けて出発していた。
本来なら一部、兵を領地に置いていき、守らせるのが普通なのだが、ドジャーノはそれをしなかった。
「ど、ドジャーノ様!? 恐れながら、本当に館を空にしてよかったのでしょうか? 今領民に襲われたら、すぐに館を奪われてしまいますよ!?」
「全く問題ない。金品の類いは持ってきておる。今のあの館はもぬけの殻だ。しかも、これで館を占領した奴は反抗の意思を持つやつらだ。そんな奴、殺してしまっても問題ないだろう?」
にやりと嫌らしく笑うドジャーノ。
それを見て、兵士は乾いた笑みを浮かべている。
「た、確かにドジャーノ様の仰るとおりですね……」
「がははははっ。どうせ、王国兵なんて我が精鋭に掛かれば一瞬で蹴散らせる。さっさと倒してしまって、領地に戻るぞ。それで不穏分子を蹴散らせば我々の天下だ!」
「はっ、かしこまりました」
兵士は敬礼をした後に行軍の先頭へと向かっていった。
(全く、余計な心配をしやがって。相手はたかが数十人なんだぞ? 速攻蹴散らした方がいいに決まっている)
ドジャーノはクシャクシャと肉串を食べながら、その行軍の中央の馬車の中でゆっくりくつろいでいた。
◇
しばらく経ち、王都までの距離の半分ほど進んできた。
真っ直ぐに進んできたおかげで、かなり距離を稼げたが兵士たちには疲労の色が見えていた。
「遅い! もっと早く動け!」
ドジャーノが兵士を鼓舞するが、むしろその言い方は逆効果で、兵士たちにやる気がなくなっていく。
「ええい、この程度で何をしているんだ! それでも我が軍の精鋭か! その程度しか働かないのならば給料を半分にするぞ!!」
叱咤激励を受け、兵士たちにドジャーノに対する怒りと諦めにも似た気持ちが芽生える。
しかし、それでも相手が悪いと抵抗せずに、行軍を続けていると突然足下にある地面が消え、兵士の半分とドジャーノの馬車が忽然と姿を消していた。
そして……。
ドゴォォォォォン。
何かが落ちて壊れるような音が響く。
「ど、ドジャーノ様!?」
落ちなかった兵が慌てて、ドジャーノ達が落ちた穴をのぞき込む。
すると、落下の途中で馬車から投げ出されたのか、ドジャーノの姿が見えていた。
ただ、それが功を奏していたかもしれない。
馬車は穴に落ちた衝撃で大破しており、そのまま乗っていたら、壊れた馬車の残骸が体に刺さってとんでもないことになっていたかもしれない。
「ぐっ……。ど、どうして地面がなくなったんだ? お、お前達! はやく私を助けろ!」
上に残った兵士たちに向かって声を荒げるドジャーノ。
彼らも慌てて、何か穴から助け出せる物を探しはじめていた。
◇■◇■◇■
「えっ、落ちちゃった……?」
予想以上に早いドジャーノ達の行軍に近くの草むらで隠れて様子をうかがっていたポポル達。
ただ、足止めのつもりだった穴に兵士たちの半分が落ちてしまったことに思わず困惑してしまった。
「う、嘘だよね? だって、私が色々と策を巡らせて、門番も籠絡して、これからドジャーノ領を攻め取ろうってところだったのに……。ううん、まだ兵士が約半数も残ってるもんね。私たちより遙かに多いわけだし、油断したらダメだね」
ポポルは自分の頬を叩き、気合いを入れ直すと捜し物をしていた兵士たちの前に出る。
そして、あたかも自分がこの落とし穴を作り、ドジャーノ達を嵌めたように見せかけるために悪者っぽい表情をする。
必死に口元をつり上げ(少しピクピクしながら)、なるべく低い声(と本人が思っているだけで、一般人からしたらまだまだ高い声)を出し、見下したような視線を向ける。
「ふっふっふっ、上手く策にはまったみたいね。残り半分、どんなむごいことをしてあげましょうか?」
突然のことに驚き固まっている兵士たち。
すると、突然ポポルの後ろから彼女に向かって忍び寄る影が現れる。
「怪しさを出そうと必死に頑張ってるポポル……はぁ……はぁ……」
目をハートにして、じわじわとポポルに近づいていくマリナス。
そして、彼女をギュッと抱きしめていた。
「や、止めてよ。マリナス。邪魔をしないで……」
必死にマリナスの手を解こうと手足をバタつかせるが、逃げられる気配は全くなかった。
「と、とにかくこれからなの! 余計なことはしないで」
「えーっ、とっても可愛いのに……」
「可愛くない! しっかりあいつらを脅すために怖い表情をしてるの!」
「怖い表情? こんな感じかしら?」
マリナスは目だけで魔物すら射殺せそうなほど、鋭い視線を兵士に送る。
すると兵士たちは体の動きを止めていた。
「良い感じよ。その調子でお願い……」
「……嫌よ」
「えっ? なんで? だって、今は自分から言ってきたでしょ?」
「だって、今回は何も貰ってないもの。私を動かしたいならちゃんと依頼料を頂かないとね」
「はぁ……、分かったよ。それじゃあ、マリナスのために真心を込めて作るプレゼントを贈るよ。これでどうかな?」
「わ、私のため!? ほ、本当に? 絶対よ!? よーし、お姉さん、本気出しちゃうよ!!」
マリナスは気合い十分の様子でゆっくり兵士たちの方へと歩いて行く。
ただ、そんな二人の様子を見て、イグナーツは苦言を呈する。
「あのな、お前達……。そんなに大声で喋ってたら、向こうの奴らにも筒抜けだぞ? そんな状態で効果があるはずが――」
「あらっ、そんなことないわよ。試してみましょうか?」
マリナスはニヤリ微笑む。
そして、先程同様……、いや、それ以上に冷たい視線を兵士に送る。
ただ、二度目ということもあり、少し慣れてきた兵士たちは先ほどみたいに動きが止まると言うことはなかった。
それを見てイグナーツは「やっぱりな……」といった感じに首を横に振っていた。
しかし、マリナスの行動はそれだけではなかった。
適当なところで動きを止めると、そのまま拳を地面に振り下ろす。
すると、次の瞬間に殴った部分がクレーターのように凹んでいた。
そして、ニヤリ微笑みながら告げる。
「あらっ、まだ穴の中に避難していないゴミくずがいるのね。ゴミは早く消し去らないとね。殴り飛ばそうかしら……。それとも、殴った衝撃で粉々に消し飛ばそうかしら……」
その言葉を聞いた瞬間、兵士たちが慌てて自分から穴の方へと飛び込もうと走り出していた。
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