第33話 vsドジャーノ(その1)


「そうか……。無事に門番の説得に成功したか」

「うん。ただ、あまり日はないから、またすぐに出発しないとダメだけどね」



 ポポルの報告に俺はにやり微笑んでいた。

 ここまでは全て予定通りに進んでいる。


 税で大半の金や食料を奪われ、領地の外に出られない民達が次にとる方法は脱出、もしくは反乱だった。

 ただ、ドジャーノは腐っても貴族。それなりの私兵を抱えている。

 普通に戦いを挑んだとしても、まともに武器も持たない民達が戦って勝てる道理はない。


 そうなるとまず逃げることを考えるはず。


 でも、どこに逃げていくか……。

 そこで、この王都で受け入れていることを伝えて、その上で逃げやすいように門を破壊、門番も買収していたら逃げたいと思っている民達は全員この町へときてくれる。


 単純だけど、これが一番効果的だった。

 あとはそのことに逆上したドジャーノがこの国へ襲いかかってくるタイミングで迎撃すれば、その戦力も削れる。


 あとはこの城下町の人口が増えれば、その税でそれだけ国も潤ってくれる。



「よし、良い出来だ。では残る方も手はず通りに頼んだぞ」



 この国へ続く道中に罠を張り、ドジャーノをおびき寄せる。

 あまりたいした物は準備出来ないが、兵を進行させにくくするための堀などを作っておく。そして、隙を突いて各個撃破を図る。


 あわよくば兵士の一部も吸収出来れば、この国の強化にもつながるだろう。



「うん、任せておいてよ。連れて行くのはマリナスとイグナーツで良いんだよね?」

「もちろんだ。あと、ジャグラもよかったら連れて行くか?」

「ううん、いらない。この町を守る人も必要だし、よく知ったマリナスと違って、あの魔族の人はあまり知らないから。勝手に暴走されて失敗するよりは、その可能性を排除しておきたいかな」

「わかった。なら後のことは任せたぞ。俺の方はドジャーノたちを返り討ちにするために魔王の力を借りてくる」

「うん、よろしくね。まぁ、私たちの方でドジャーノも倒しちゃうかもしれないけどね」



 ポポルは軽く舌を出して微笑む。

 ただ、ポポルに預けるのは十五人の兵士とイグナーツ、マリナスだけ。

 流石に百を超えるドジャーノの兵に勝てるとは思えず、これが冗談で言っているのだとわかる。



「まぁ、死なない程度に頼む。ただでさえ人が少ないんだ。今、人を失うのは辛い」

「……!? うん、わかったよ。兵士たちのことを気にかけるなんて珍しいね」

「別に損得で考えただけだぞ?」

「うんうん、わかってるよ。それじゃあ、私たちは出発するからね」

「あぁ、気をつけてくれ」



 ポポルを見送った後、俺は頭を抱える。

 ドジャーノを倒したとなると他の貴族達も危機感を覚えるだろう。

 降伏してくるか、それとも――。



「おそらくは後者だな。それに帝国も冒険者達の動きがないと知ったら、次の手を打ってくるだろう。自由奔放な冒険者ではなくて、直属の兵士を――。はぁ……、前途多難だな。今、帝国に喧嘩を売るわけにも行かないし、甘い汁だけ吸いたいところだが――」



 期限付きの同盟である以上、おのずと帝国と戦う日は来るだろう。

 ほぼ勝ち目はない。

 もしなんとか追い払うことが出来たとしても、こちらの被害は甚大で立て直せるかも分からなくなるだろう。


 つまり、今この国に戦争を仕掛けても得がない……。

 それなら他に力を注いだ方がいいことをその使者に分からせればいい訳だな。


 この国に帝国を襲う意思はなく、危険は何一つない。

 むしろ、遠征してくるために必要な金や食料が無駄になるだけだってことを……。



「よし、ひとまずは目の前の敵から対処していくか。あれだけ税を取っている奴だ。きっと、すごい量の金を貯め込んでいるに違いない。それを回収することが出来たら、次の手もなんとか打つことが出来るだろう」



 俺はゆっくり立ち上がると、そのままシャロが営んでいる冒険者ギルドへと向かっていくのだった。



◇■◇■◇■



「なにっ? 領民達が不穏な動きをしているだと?」



 ドジャーノは部下の兵士からの報告を受けていた。

 ただ、そのことを真剣に捕らえようともせずに、昼間からゆっくり酒をあおっていた。



「気にする必要もないだろう。どうせ何もすることも出来ない。襲ってこようとも私の兵士には勝てないし、逃げようにも巡回兵に見つかる。どうせ奴らは一生私に搾取されるしかないのだから……」

「し、しかし、生きていけなくなったら、それこそ何をしでかしてくるか……」

「やつらにはもう打つ手はない。私たちはいつも通り構えていたら良い」

「……わ、わかりました」



 兵士は悔しそうな表情を見せながら部屋から出て行った。



「全く何を心配しているんだ。何年も続けてきたこの体制が壊れるはずも――。いや、心配な点は一つあるのか。アルフ王子……。奴が戻ってきてから色々と計算が狂わされている。本当ならユールゲン王国参謀長のポポルを味方に引き入れた時点で、私のこの地位は安泰だったはず……。それなのに――」



 ドジャーノは手に持っていたコップを思いっきり握りつぶす。

 そして、怒りのあまり手を震わせていた。



「どうせ奴らは力を貯めて攻めてくるのだろうな。ならば何も準備が整っていないであろう今、全軍を持ってして攻め落とすのも良いかもしれないな。金は掛かるがこの際、背に腹は代えられん。また民衆から巻き上げれば良いだけの話だ」



 ドジャーノはニヤリ微笑んで、すぐさま立ち上がっていた。

 そして、部屋から出ると全兵士に招集をかけていた。



◇■◇■◇■



「さーて、とりあえず王都に向かうには絶対にこの街道を通るからね。ここに穴を掘ってくれるかな?」

「なんで私がこんなことを……」

「文句を言うな。俺も似たようなものだ」



 スコップを持ったマリナスとイグナーツは王都とドジャーノ領のちょうど中間地点に大穴を掘っていた。



「しかし、こんなもの、意味があるのか?」

「うーん、まさか落ちるような人はいないと思うけど、動きを鈍らせるくらいの効果はあるよ」

「こんなこと、ポポルの頼みじゃなかったら断ったのに……」



 いやいや進めるマリナスと黙々と穴を掘るイグナーツ。

 流石に進み具合に差が出てきたので、マリナスを鼓舞する意味合いも含めて、イグナーツを褒めるポポル。



「うん、やっぱりイグナーツはすごいね。あっという間に大穴が出来てきたよ」

「……!? わ、私ももっとすごいわよ! ポポルが褒めてくれるなら――」



 軽く褒めただけなのにマリナスは目を輝かせて、掘る速度を上げていた。

 これなら簡単に穴が出来上がりそうだ。



「おう、やるか? 俺も負けないぞ!」



 上の服を脱ぎ、イグナーツも気合いを入れる。



「ちょ、ちょっと、イグナーツはもうそのくらいで――」



 ちょうど良いくらいの穴だったので止めようとしたのだが、それで二人は止まらずに結果的に一度はまったら抜けられなさそうなくらい深い大穴が出来上がってしまった。



「ま、まぁ、目的は果たせたわけだからいいよね……」



 ポポルはその穴を眺めながら乾いた笑みを浮かべていた。


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