第37話 ドジャーノ領の併合

 ドジャーノとの決着が付いた後、俺はポポルやジャグラを連れてドジャーノ領までやってきた。

 流石に兵をまとめるイグナーツは連れてくるわけにはいかなかったし、マリナスはシャロがいる冒険者ギルドに入り浸る生活に戻っていった。


 まぁ、今回はポポルのおかげで、マリナスはかなり働いてくれたからな。

 シャロに迷惑さえかからなければいいだろう。


 マリナス自身がシャロに嫌われるようなことはしないか……。


 そして、元ドジャーノ領へとやってくる。

 すでに城門は開かれている。

 これはおそらくドジャーノが出て行った後に民達が開いたのだろう。

 門を守る人物がいなくて、領内に不満があるとそうなっても仕方ないよな。


 俺は苦笑しながら領地の中へと入っていく。

 すると、その瞬間に鋭い視線を向けられる。


 もしかして、俺が王子だと言うことがバレたのか……?

 いや、違うな。


 その視線の先を辿ると、どうやらジャグラの方へと向いているようだった。


 あー……、そっか。王都では普通に出歩いている魔族達もよそだとまだ珍しいんだな。

 しかも、恐怖の対象……。

 下手に襲いかかってこないと良いが――。



「おいっ、お前達! 一体何のようだ!」



 足を震わせながら近くにいた男性が声を上げてくる。

 ただ、その男性も禄に食事が出来ていないのか、頬は痩せこけ、服は使い古しのボロボロ、かなり貧困にあえいでいるようだった。



「この地の領主、ドジャーノから貴族の地位を剥奪した! 今後は私がこの地を治めていく。異論があるものは出てくると良い!」



 俺が声を出すとようやく民達はこの事態を把握したようだった。



「また俺たちから搾取するつもりか。これ以上何を……」

「当然であろう? 俺たちが土地を与え、お前達は税を納める。それは国家として当然の流れである。ただ、民なくして国が成り立たないのも事実。よって、本日より税の額を王都と同じの利益の三割とさせていただく。また、通行税等も廃止させていただく」

「……三割でいいのか?」

「あぁ、利益のな。これならば食いっぱぐれる人間が現れることもほとんどない。あと、すぐに収入がないものは国から食料の援助をさせて貰う。またあとからこのポポルに言ってくれ」

「……さりげなく私に仕事を押しつけたね」



 苦笑を浮かべるポポルをよそに俺は言葉を続ける。



「これでまだ納得できないものがいるだろうか?」

「えっ、あっ、いえ……。納得も何も……、そこまでしていただいてよろしいのでしょうか? えっと、新しい領主様? に」



 あぁ、そうか。

 まだこいつらには俺が誰か分かっていないのか。

 それでこの地に来た新しい領主だと思っているのだろう。



「いや、本来は謝罪すべきことだ。王国がふがいないばかりにお前達には苦労をかけた。ただ、これからはこのアルフ・ユールゲンがしかと目を光らせる。安心して生活を送ると良い」

「アルフ・ユールゲン……ってことはあなた様は……」



 男が顔を青ざめて確認をしてくる。



「あぁ、俺はこの国の第一王子で、今は国政を取り仕切っている。しかし、王国の力が弱ってる今、ドジャーノの悪政を知りながら、解決に時間がかかってしまったこと、申し訳なく思う」



 俺が頭を下げると周囲からざわつきが起こる。

 そして、男が慌ててくる。



「あ、頭を上げてください。むしろ我々こそ、そうとは知らずに牙を剥こうとしたこと、申し訳ありません。アルフ王子になら安心してついて行けます」



 男のその言葉に回りからも大歓声が上がる。

 その声を聞いて、俺はにやりと微笑んでいた。





 ドジャーノの館へとやってくる。

 意外なことに館自体は少し広いものの余所の貴族達と変わらない館と大きさだった。


 おそらく昔にあったものをそのまま使っているのだろう。

 とことん金を使いたがらないやつだったんだな。


 そこの執務室のソファーに腰掛けるとようやく一心地つくことが出来た。



「ふぅ……、さすがに疲れるな」

「さっきのことだけど、アルフ様が頭を下げる必要があったのかな?」

「いや、あれでいい。あれをしたからこそ、この町の人間は俺のことを疑わずに慕ってくれるようになった。ドジャーノがかなりの悪政を敷いていたからな。ちょっと良くするだけで簡単にこの成果を得ることができる。頭を下げたのもその程度のことで信頼を得ることが出来るなら安いものだろう?」

「うん……、それはそうだけど……」

「あっ、そうだ。この領地はポポルに任せるから後のことは頼むな」

「うん……、わかった……ってえっ!? ど、どうして、私に?」

「当然じゃないか? 今回、この領地を取り戻すことが出来たのはポポルの功績によるものが大きいだろう? ならその功に報いるのも王族の勤めだ」

「それはそうだけど……、どうして私なの? そもそもこの領地を取ることができたのはアルフ様のおかげ――」

「いや、ポポルのおかげだ。だから遠慮なく貰ってくれ。まぁ、すでにかなり荒れた地になっているから復興も大変にはなってしまうけどな」

「……あぁ、そういうことね。わかったよ。しっかり復興してみせるね」



 ようやくポポルが頷いてくれる。

 すると部屋の隅で腕を組んで、無言で立っているだけだったジャグラが声を出す。



「それならどうして俺は呼ばれたんだ? 俺は冒険者として自分の力を高めたかったのだが――」

「この地も畑が荒れてるだろう? まぁ、作ったとしても大半がドジャーノに取られると分かっていたら作る気にもならなかったんだろうが」

「ふんっ、それなら農家に畑を耕させればいいだけだ」

「だが、それをするにも指示をする人間がいるだろう?」

「ま、まさか……!?」

「あぁ、そういうことだ。この領地の畑も任せたぞ!」

「ぐっ、ど、どうして俺が――」

「あっ、ちなみに魔王からもしっかり許可は貰ってきている。シャロの料理を一回おごってやっただけで許可を出してくれたぞ」

「お、お前、卑怯な……。俺が魔王様の許可があると断れないと知って……」

「それじゃあ、後は任せたぞ。まぁ、二人で仲良くしてくれ」



 俺の方はまた別のことを考えないといけないからな。

 領地を取り戻したとして、そこに置く管理者は信頼に足る人物じゃないといけない。


 今のポポルならまず裏切らないし、ジャグラは魔王がこちらについている限り問題がない。


 しかし、今後別の貴族達を追いだしたときに、その地を任せるべき人物がいない。

 その人物を探していくのが今後の課題だな。

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