第30話 マリナスへの依頼

 ついにレッドドラゴンの討伐に成功したらしい。

 正直、今この町にいる冒険者たちは命をかけるようなことはしないと思っていたから、どちらかと言えばジャグラとマリナス向けの依頼だった。

 多分そのどちらかが討伐に成功したのだろう。


 さて、ドラゴンの素材を受け取りに行くか。

 あれからは良質な武具を作ることが出来る。

 それを兵に装備させることが出来れば、我が国の兵力を一気に強化することが出来る。


 金貨十枚程度でそこまでの素材を買うことが出来るなら安いものだ。



「アルフ様。無事にドラゴンの依頼が達成されましたよ」

「あぁ、聞いた。それで素材の方をもらいに来たんだ」

「えっと、それはしっかり保管してあるのですけど……」



 シャロが何か言いにくそうにしている。



「何か問題があったのか?」

「あっ、いえ。むしろ完璧なドラゴンの素材を持ってきてくれたんですよ。巨大なドラゴンを――」

「あぁ、そういうことか。それならば俺じゃ運べないな。またイグナーツにでも運ばせるか」

「ははっ……、申し訳ありません。出来れば早めにしていただけるとありがたいです。ギルドの倉庫が既にいっぱいでして……」



 確かにそれほど巨大なドラゴンなら、倉庫が詰まってしまうだろう。

 ……でも、普通は細かい素材にしてから運ばないのか?

 ドラゴンをそのまま運んでくるなんて馬鹿なこと、するやつが――。



 そこで俺はジャグラの顔が浮かんだ。

 もし、ジャグラが挑発されていたらあのドラゴンくらい運んできそうだ。


 つまりこのドラゴンを倒したのはジャグラか?



「シャロ、この依頼を果たしたのって誰なんだ……?」

「一応ギルドの規定で言ったらダメなんですよ。本当は。でも、アルフ様なら悪用しませんよね?」



 念のために確認を取ってくる。

 まぁ、別に言いふらしたりはしないからな。



「もちろん、興味本位で聞きたかっただけだ。おそらくジャグラだと思うが――」

「えぇ、そうですよ。ジャグラさんとマリーさんのパーティがこの依頼をしてくれました」

「……えっ、ジャグラとマリナスがパーティを組んだのか!?」



 珍しい組み合わせに思わずシャロに聞き返してしまう。



「えっ、違いますよ? マリナスさんではなくてマリーさんですよ」



 えっと、同一人物じゃないのか?


 少し頭が混乱するが、人前だからなるべくばらさないようにしてくれているのだろうと判断することにした。



「わかった。それじゃあ、そのマリーさんというのに会わせてくれないか?」

「はい、ギルド内にいらっしゃいますよ?」



 シャロは何も分かっていない様子でにっこりと微笑む。

 ただ、普通に話しかけてもマリナスが相手にしてくれるはずがない。



「いや、俺は少しすることがあるんだ。だからシャロが呼んできてくれないか? それでその後、一緒に同席して欲しい」

「……? 構いませんよ。でも、じっくり話し合うならこのギルド内だと騒々しいですね。上に職員用の部屋……、私一人ですけど、ありますのでそこに呼んできますね」

「あぁ、わかったよ。それじゃあ俺は先にその部屋に行かせて貰うな」

「はい、私もすぐに行きますね」



 シャロは慌てた様子でマリナスを探しに行く。

 その後ろ姿を見た後に俺は職員用の部屋へと向かっていった。





 職員用の部屋は机がいくつかと紙束が置かれているだけの部屋だった。


 まぁ、シャロ一人だとこれで十分なんだろうな。


 そこに小さなテーブルと少し綿の飛び出しているボロボロのソファーがあったので、腰掛ける。

 そして、しばらくするとシャロがマリナスを連れてやってくる。



「そ、そんな、シャロちゃんと二人っきりなんて、これはもう合意の上……、ってあれっ?」



 頬に手を当ててくねくねと腰を揺らしていたマリナスは俺の顔を見た瞬間に首を傾げる。

 そして、シャロの方も俺が座っているソファーを見て慌て出す。



「そ、そんな……。アルフ様、もっとちゃんとした椅子に座ってください。どうしてそんなもうすぐ捨てようと思っていたソファーに座ってるのですか!?」

「いや、なんとなくだ。それよりもマリナス、よく来てくれた」

「ちょ、ちょっとシャロちゃん? どういうこと?」



 マリナスは慌てた様子でシャロの方に振り向く。



「えっと、私はちゃんと説明しましたよ? 『アルフ様が用事があるらしいので、一緒に二階の部屋に来てもらえませんか?』って」

「ごめんなさい。私、男の名前は意図的に聞かなかったことにしてるの。だからシャロちゃんが用があるのだと思ったのよ」

「まぁ、そういうわけだ。ボロいところだが、座ってくれ」

「……別に私は特に用はないわよ?」



 マリナスが出て行こうとするので俺はにやり微笑みながら言う。



「ここはシャロの部屋だが、椅子に座っていかなくて良いのか?」

「しゃ、シャロちゃんの!?」



 マリナスは目を輝かせて、体の動きを止める。

 そして、大人しく俺の向かいの席に座ってくる。



「べ、別にシャロちゃんの椅子だから座りたいって思ったわけじゃないわよ! 話も聞かずに出て行くのはシャロちゃんに呼び出された手前、悪いかと思っただけよ」

「あぁ、残ってくれた理由は何でも良い。それよりもマリナスに聞きたいことがある」

「……さっきからマリナスマリナスって言ってるけど、私はマリーよ! それよりもこんな新米冒険者を捕まえて一体何を聞こうって言うの?」

「それは済まない。ではマリーに頼みがある」

「嫌よ!」

「それはシャロからのお願いだと言ってもか?」

「喜んで受けるわ。何をしたら良いの?」



 うん、簡単に扱える奴だな。

 ただ、後ろでシャロが困惑しているのが少し気になる。



「あぁ、マリナス……、いや、マリーに頼みたいのはドジャーノ領に行って、門番の買収と城壁の破壊を頼みたい。もちろん、その買収の費用は受け持つ」

「わかったわ。それでその依頼をこなしたら何をもらえるのかしら?」

「そうだな、シャロを……」



 シャロの名前を挙げると彼女は必死に首を横に振っていた。

 流石に何を言われるかわかったのだろう。



「よし、今回の依頼に参謀役としてポポルを同行させるというのはどうだ?」

「わかったわ。その話、乗ったわ」



 笑みを浮かべるマリナスとがっちり手を握り合う。

 勝手に一緒に同行させることになったが、ドジャーノ領は一度その領地にいたポポルに案内させるのが一番良いからな。

 その後の作戦も踏まえて――。

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