第29話 凸凹パーティ
「くくくっ。奴らめ、今頃ドラゴンが暴れて焦っているだろうな」
ドジャーノは館の中で酒の入ったコップを片手にニヤニヤと微笑んでいた。
すると側に控えていた従者が驚いた声を上げていた。
「えっ、ドラゴンの素材は高い値段で売れるからと無理矢理派兵したのではないのですか?」
「ば、ばかもの。そんなはずないだろう! ドラゴンを怒らせて、城を襲わせるために決まっているだろう!」
「そうだったのですね。『ぐふふっ、ドラゴン一匹で素材を売却すれば金貨百枚は下らないぞ……』と仰っていたので、勘違いしてしまいました」
「まぁ、敵を騙すにはまず味方からだもんな。それよりもこの領地を通過するための税と出入りするための税はしっかり上げただろうな?」
「はっ、ドジャーノ様が仰ったとおりに通過するためには金貨一枚。領地のものが出て行くためには金貨十枚、とさせていただきました。しかし、本当によろしかったのでしょうか? こんなことをしたら商人がこの領地を通ることもなくなりますし、この領地から出ていくものもいなくなりますよ?」
「この領地から誰も出ていかなくなったら、しっかり税を払ってくれるから良いではないか……」
「暴動が起きますよ? 大丈夫ですか」
「そのために兵を雇っているのだろう? もし暴動が起きたらしっかり捕らえて全財産没収するといい」
「は、はぁ……」
従者が曖昧な返事をする。
しかし、それを気にした様子もなく、ドジャーノはにやりと微笑みを見せていた。
「我が兵でも太刀打ち出来なかったドラゴンだ。ユールゲンの兵じゃ太刀打ち出来るはずがないだろうな」
◇■◇■◇■
ジャグラとマリナスは少し距離を開けながら常闇の大森林を進んでいく。
「しかし、ドラゴンがどうして暴れてるんだ? 基本的に奴らは高い知能があるから、縄張りを襲ったりしない限りは襲ってこないと思うんだが――」
「……誰かが手を出したんだろう。それよりもそれ以上近づいたら殴るからな」
マリナスが実際に拳を作ってみせる。
そして、近くから襲いかかってきたウルフに対して、その拳を放つとウルフは粉々に砕け散っていた。
「相変わらず恐ろしいな、その拳は。だからこそその力を越える理由があるんだけどな」
ジャグラは冷や汗を流しながらも、笑みは崩さなかった。
「ふっ、お前に私を越せるはずがないだろう」
「いや、越してみせる!」
二人で不敵な笑みを浮かべ合う。
それと同時に何度も襲いかかってくる魔物達をことごとく蹴散らしていった。
「それにしてもシャロちゃんは心配性だな。この程度の雑魚しかいない大森林で危険なんてあるはずないのにな」
「全くだ。ドラゴンがいなければわざわざこんなところ来ないくらいだからな」
何食わぬ顔で日も当たらない大森林を進んでいるが、ユールゲン王国にいる一般的な冒険者だと今軽く倒している魔物達ですら、パーティを組んでようやく倒せるレベルだった。
「それにしても、シャロ様もあんな野蛮な冒険者相手をよく務めてますよね。下手に手を出そうものなら俺がそいつを――」
「いえ、そのときでもあなたの出番はないわよ。私が軽く絞めるから……」
マリナスがにっこり微笑む。
ただ、目の奥が笑っていないので、ジャグラは苦笑を浮かべるしか出来なかった。
◇
しばらく歩いて回ると突然耳をつんざくような咆哮が聞こえてくる。
「グルァァァァァァ!!」
その声に思わずジャグラ達は周囲を警戒する。
「今の声、聞いたか?」
「もちろんだ。お前はそこで休んでいろ。私が倒してくる」
「いや、お前こそ休んでいろ。ドラゴンは俺の獲物だ!」
お互いがせめぎ合いながら声のした方に向かって駆けていく。
するとそこには、体中に傷を負った真っ赤なドラゴンが暴れ回っていた。
そして、回りには折れた剣や大量の死体が転がっている。
「こいつらは冒険者か?」
「いや、違うな。冒険者連中がそんな鎧を着ていたか? 奴らは身軽さを重視するからな。ここまで重装備で固めてくるはずがない。これはどちらかと言えば、国や貴族が抱えている私兵……と言ったところだろう」
「そんなものなのか……。俺からしたらどちらも変わらないんだけどな」
魔族はほとんど鎧を着けていない。
付けなくても身体強化魔法で鎧並みの体をしている。
それならわざわざ、ごちゃごちゃとした鎧をつけるのは効率が悪い。
それに装備は強い攻撃を受けてしまうと壊れてしまう。
改めて購入することや直す費用を考えると装備は少ない方が生活には優しい。
「よし、それじゃあ早速俺が――」
「いや、あれは私の獲物だ!」
二人がドラゴンに向けて駆けだしていく。
それに気づいたドラゴンが二人に向けて火息を吹きかけるが、それをあっさり躱してジャグラはまっすぐに頭を、マリナスは体を狙っていく。
そして――。
ドゴッ!!
鈍い音を鳴らして、ジャグラとマリナスは同時にドラゴンを殴りつけていた。
その瞬間にドラゴンは大きく目を見開いて、そのまま地面に落ちていった。
「よしっ!! 倒したか」
「そんなわけないだろ! 相手はドラゴンだぞ」
少し喜ぶジャグラにマリナスは注意をする。
そして、その警告通りドラゴンは震える足をしながらもゆっくり起き上がってくる。
「そうでなくてはな。これは特訓の甲斐があるな」
「そんなこと言ってる場合じゃないぞ! くるぞ」
ゆっくり翼を羽ばたかせて、空に浮き上がるドラゴン。
今度はジャグラ達が避けられないように広範囲にわたって火炎を吐きかける。
それは先ほどまでの敵の力を確かめるために、軽く吐いたものではなく思いっきり貯めて吐いた高火力の炎だった。
それに飲み込まれた剣は一瞬で溶けてしまい、姿を消してしまう。
「くっ……」
ジャグラは両腕を交差させ、魔力も込めて防御に徹する。
「馬鹿! それで防げるはずないだろう!!」
そんなジャグラの後ろに来て、彼ごと防御魔法を張るマリナス。
そして、それが火炎と衝突するとマリナスは顔をしかめる。
「さ、さすがに直撃だと辛いな……」
ただ、それでもマリナスの防御は破られることなく、火炎を吐き終えたドラゴンは一瞬その動きが固まっていた。
相手も全力だったのだろう。
ただ、その隙をジャグラが見逃すはずもなかった……。
「おらっ、くらえ!!」
ドラゴンより上に飛び上がり、もう一度その頭に渾身の拳を振り下ろす。
するとドラゴンが落ちていき、そのまま地面にめり込んで意識を失っていた。
◇
「ふぅ……、なんとかなったか……」
「――少しは自分の身を守ることを考えろ!」
額の汗を拭うジャグラに対して、マリナスは怒声を上げる。
「あぁ、済まなかった。あれは本当に助かった」
「……いや、冒険者の誰かが命を落としてはシャロちゃんが悲しむからな。ただそれだけだ――」
マリナスはサッと後ろを向くとそのまま歩いて行く。
「お、おいっ、このドラゴンはどうするんだ!?」
「お前が倒したんだ。お前が運んでいくといい……」
マリナスが歩き去っていったあと、ジャグラはあきれ顔を浮かべながら呟く。
「このドラゴン……、俺の十倍くらいの大きさがあるんだけど……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます