第28話 冒険者ジャグラの登場

「シャロ様、私めも冒険者の登録をしたいのですが……」



 冒険者ギルドにやってきたジャグラは恭しく頭を下げてシャロに頼んでいた。



「ちょ、ちょっと待ってください! ジャグラさんには畑の仕事がありますよね?」

「あぁ、そっちならもう心配はないですよ。それよりも俺自身の力が落ちているのが気になるので……」

「あっ、そうなのですね。では、登録させていただきます。こちらにお名前を書いていただいてよろしいですか?」

「はい、わかりました」



 ジャグラはスラスラと自分の名前を書いていく。

 その様子を周りの冒険者達は眺めながら、ひそひそと小声で話し合っていた。



「お、おい、魔族が冒険者をやるらしいぞ……」

「だ、大丈夫か? ……いや、シャロちゃんも魔族か」

「とりあえず様子を見ようぜ……」



 そんな様子を鬱陶しく思いながら、ジャグラは紙をシャロに返す。



「ここは騒々しいですね。よくこんなところで仕事出来ますね。私めが静かな地に変えさせていただきましょうか?」

「だ、ダメですよ!? この場所を壊したら怒りますからね!」



 シャロが頬を膨らませて怒りを表す。

 それはあまり怖い姿ではなかったものの周りの冒険者は怯えを見せていた。



「申し訳ありません。少し言い過ぎてしまいました。それで私の冒険者登録は――」

「はい、済みましたよ。こちらが冒険者証になります。これでジャグラさんも初心者冒険者ですよ」



 にっこり微笑むシャロにジャグラは頷く。



「よし、それなら早速依頼を受けさせてもらいます。依頼書は……?」

「あっ、それなら以前は私のところで管理していたのですけど、依頼の数も増えてきましたので、あちらの掲示板に貼らせていただいています」



 シャロが指さした先には、何枚かの紙が貼られた大きな掲示板があった。

 そして、その前にはどの依頼を受けようかと悩んでいる冒険者の姿もあった。



「なるほど……。かしこまりました。依頼を決めたらシャロ様のところに持ってきたら良いのですね?」

「はい。あっ、契約金も必要になりますので、初心者のうちからあまり難しい依頼を受けないでくださいね」

「あぁ、もちろんですよ。こなせる範囲のものしか受けないつもりです」

「それならよかったです」



 安心した様子のシャロ。

 その表情を見た後にジャグラは依頼書を眺めていく。



(ふむ、ウルフ討伐やオーク討伐といった討伐系に、ドブ掃除や屋根の修理と行った雑務系、その他にも子供の世話や護衛といったものまで、なんでもあるようだな。俺は修行を兼ねてる以上、討伐系だがオークとかを倒しても意味がないからな。もっと強い相手は――)



 ジャグラはじっくりと依頼書を眺めていて、とある依頼に気づく。



【レッドドラゴンの討伐およびその素材の回収】

報奨金:金貨十枚

契約金:金貨一枚

難易度:Sランク冒険者級

人数 :二人以上のパーティ限定


常闇の大森林でレッドドラゴンが発見された。このままでは町まで被害が及ぶかもしれない。かなりの強敵になるが、なんとか討伐してくれ。そして、その素材を持ち帰って欲しい。

無駄に命を散らされても困るので、この依頼は多人数のパーティ限定にさせてもらう。

また、持ち帰った素材の具合で、さらに報奨金を上乗せする場合もあるのでぜひ頑張ってくれ。


依頼主:アルフ・ユールゲン



(アルフの奴、こんな依頼を出していたんだな。それにしても金貨十枚か……。こんなに金を持っているのか? まぁ、俺が気にすることではないな。それよりも俺にふさわしい依頼じゃないか!)



 依頼書を取ろうとするとそれと同時に依頼書を取ろうとした人物がいた。



「おいっ、それは私が先に取ったぞ!」



 それは賢者マリナス……、いや、新米冒険者マリーだった。



「いや、どう考えても俺のほうが早いだろう」

「ほう……、そこまで言うのならどっちが早かったか勝負で決めるか?」

「望むところだ!」



 以前マリナスに一瞬で倒されたのに、ジャグラは再びマリナスに挑もうとする。

 すると、周りの冒険者達はそれをまくし立ててくる。



「いいぞ、魔族のやろうなんて倒してしまえー!」

「いや、俺はあの魔族の方を応援するぞ! どう考えてもそっちの方が強そうだ」

「よし、ならば賭けるか?」

「望むところだ!!」



 だんだんとエスカレートしてくると、シャロがジャグラ達の前に出てくる。



「もう、なんでまた騒動を起こしているのですか!?」



 頬を膨らませるシャロ。



「シャロ様、申し訳ありません。ですが、私が取ろうとした依頼書をこの女が――」

「私の方が先に取っただろう? シャロちゃんも見ていただろう?」

「えっと、その依頼書……と言いますと」



 シャロがレッドドラゴンの依頼書を眺める。

 そして、二人の姿を見る。



「お二人は新米冒険者なんですよ!? 冒険者ランクは最低のFです。本当なら討伐系ではなく町の雑用とかでランクを上げていく時期なんですよ? わかっていますか?」

「でも、ランクが下だから受けられないとかはないのですよね?」

「うっ……、それはそうですけど、でも、危険ですよ!」

「こいつはどうかわからんが、私なら大丈夫だ。シャロちゃんの顔をもう一度見るまで死んでも死にきれないからな」

「わ、私も大丈夫ですよ。レッドドラゴンならちょうど良い修行相手ですから――」

「はぁ……、わかりました。それでパーティメンバーはどこにいるのですか?」



 シャロがため息を吐きながら尋ねてくる。

 すると二人は首を傾げながら逆に聞き返してくる。



「パーティ……ですか?」

「なんだ、それは?」

「はぁ……、そうですよね。この依頼は二人以上のパーティじゃないと受けられないんですよ。危ない依頼になりますので――。全く二人は受けられない依頼で喧嘩して――。あっ、そうだ!」



 シャロが何かを思いついたように手を合わせる。

 その表情にジャグラとマリナスは嫌な気配がして、冷や汗を流していた。



「お二人でパーティを組んで依頼を受けると良いんですよ! うん、名案ですね。これなら喧嘩することも減りますよね」

「いや、ちょ、ちょっと待ってください! 私とこいつがパーティ? 絶対に無理ですよ!」

「私の方こそこんな魔族とパーティなんて組めるか! なんでこいつのお守りをしないといけないんだ!」



 シャロの提案に二人は猛反発をする。



「そうですか……。お父様もジャグラさんには期待されてるんですけど、この程度の依頼も出来ないのですね……」

「うっ……」

「マリーさんも私の相談に乗ってくれるって言っていたのに……」

「ぐっ……」

「でも、仕方ないですよね。難しい依頼ですから――」



 シャロが本当に残念そうに答えるとジャグラ達は口を噛みしめて、覚悟を決めて言ってくる。



「よし、その依頼、私とこいつがなんとかする!」

「シャロ様の期待には応えるしかありませんからね! 今回はこの女とパーティを組ませていただきます!」

「はいっ、かしこまりました。やっぱりお二人は仲良しの恥ずかしがりやさんだったのですよね。では、依頼を受注いたしますね」

「ちょ、ちょっと待ってください! 仲良しの部分だけ訂正を――」



 ジャグラが必死に言うがシャロはカウンターの裏に戻っていって、依頼の契約の準備を始めていたので、その声は聞こえていなかった。

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