第24話 畑のジャグラ
城から出て東側にしばらく歩いたところに見えてくる耕された畑達。
前まではかなり荒れていた場所だったのだが、ジャグラの力と新たに増えた若い農家達の働きもあって随分と畑らしく耕すことが出来ていた。
その様子を満足そうに眺めていると農家の青年が一人、体をフラつかせていた。
「おいっ、そっちのやつ!」
「は、はいっ。な、何か悪いことでもしましたか?」
「疲れがたまってるだろ!! 早く休め! 代わりは俺がしてやる」
「そんな……。ジャグラ様を働かせるなんて――」
「良いから休め! そんな状態で働かれるほうが迷惑だ! しっかり休んで万全の状態で働きに来い!」
「か、かしこまりました!!」
ジャグラに怯えて急いで去っていく。
しかし、その途中で振り向いて、改めて一度頭を下げていく。
「ありがとうございました! また早く元気になって戻ってきます!」
「おうっ、気をつけて帰れよ!」
青年が帰るのを遠目で眺めていたジャグラはあきれ顔ながらも、口元は笑みが浮かんでいた。
「よし、他の奴らはさっさと畑を耕してしまうぞ! それが終わったらいよいよ種まきだからな!」
「はいっ!!」
そして、気合いを入れて残りの畑をどんどんと耕していった。
◇
「ふぅ……、これで大体は終わったな。肥料もまいた。これで作物を育てる準備は整ったな。あとは種を蒔いて、日々の世話をしていけばなんとかなるか。……はっ!? ど、どうして俺はここまでこの国のために働いてるんだ? お、俺は魔王様のために――。しかし、魔王様がこの国に協力しろと命令されていたのだからこれで正しいのか?」
ジャグラは道のど真ん中で思わず頭を抱えてしまう。
他の道行く人はジャグラを見て、少し距離を開けて歩いていた。
やはりジャグラはシャロに比べると魔族らしい姿をしているので、慣れていない人たちは恐れを抱いていた。
しかし、そんな彼に話しかける人物がいた。
「おいっ、そんなところでどうしたんだ? 体調が悪いなら国に帰るといい。いつでも歓迎するぞ」
今日はしっかりと服を着ているイグナーツが辛らつな言葉をかけてくる。
「たわけが! そんなことをするわけないだろう。俺は魔王様に直にこの国を頼まれているんだ」
「ちっ、せっかくこの国から魔族を追い払う良い機会だと思ったのだがな」
「お前も勝手に追い出すとアルフのやつから怒られるんじゃないか?」
「そういうことだ。アルフ様もどうして魔族を堂々と呼んでいるのかわからんが――」
「それで用事はないのか? 俺は帰るぞ?」
「ちょっと待て! お前にも関係することだ。どうやら冒険者ギルドの新人に回復術士が来たらしい。けが人が出たらいってくれとシャロが伝えて欲しいといっていたぞ」
(回復術士か……。俺たち、強靱な体を持つ魔族が使うことはほとんどないが、人間達はよく使っていた、傷を治す魔法を使うやつか……。確かに今日帰したやつとかも身体に異常がないか診せておいた方がいいかもな。何かがあってからじゃ遅いわけだし)
「よし、一応見に行くか」
「そういうと思ったぞ。俺も兵士たちがよく怪我をするからな。一度見に行っておこうと思ったんだ。その……値段とかな」
「あぁ……、冒険者ギルドだと依頼するのに費用が掛かるんだな……」
(たいした額じゃないだろうけど、払える金額かの確認はいる訳か)
「よし、先に行くぞ! そいつに危険がないか確認する。シャロ様にもしものことがあっては魔王様に顔向けが出来ん」
「はははっ、あの冒険者達に魔王と敵対するような人物がいるとは思えんな」
笑うイグナーツと共にジャグラは肩を並べて歩いて行く。
その奇怪な組み合わせに通りでは注目を集めていたが、この二人がそんなことを気にするはずもなく、まっすぐにギルドへとやってくる。
そして、そのまま扉を開け放つ。
ギルドの中では新しい仲間を歓迎する飲み会のまっただ中で皆が酒を片手に騒いでいた。
そんな中をシャロが忙しそうに料理や飲み物を必死に運んでいる。
「おいっ、お前ら! 自分の料理くらいは取りに行け! シャロちゃんが困ってるだろ」
「す、すまん、シャロちゃん。カウンターに置いておいてくれたら自分たちで持っていくからな」
「いえ……、お金をいただいているわけですし、このくらいは――」
「そんなこというな。俺たちがただ運びたいから言ってるんだ。運ばせてくれないか?」
「そ、それならお願いしてもよろしいでしょうか?」
シャロがうつむき加減に頼むと冒険者は手を上げて喜んでいた。
すると他の冒険者達も我先にと運び役を担っていってくれる。
「なんだ、このギルドは……。まさか冒険者がここまでシャロのことを慕っているとは――」
「当たり前だ、シャロ様は魔王様の娘だぞ!? 人望と尊厳はそこらの人間に勝てるはずもないだろう」
「……そんな雰囲気にも見えないけどな」
イグナーツは苦笑しながら例の回復術士を探し始める。
そこで見慣れた人物を発見する。
賢者、マリナス。
なぜか彼女が酒を飲んで楽しそうにシャロのことを眺めていた。
かわいい子に目がない奴だったなとイグナーツは乾いた笑みを浮かべる。
「そういえばアルフ様がマリナスのことを探していたな。よし……」
イグナーツはマリナスのほうに近づいていく。
そして、同じテーブルに着いていた。
「マリナ……、ぐほっ」
声をかけようとした瞬間に側に置かれていた木の棒で思いっきり殴られる。
「あらっ、初めまして。私は見習い冒険者のマリー。以後お見知りおきを」
「何を言ってるんだ。お前は賢者マリ……ぐはっ」
また喋ってる途中に思いっきり殴られる。
そして、マリナスは顔では笑みを浮かべながらも、目の奥が笑っていない状態で話しかけてくる。
「私はマリー。わかる?」
その有無をも言わさない態度に思わず何度も首を縦に振っていた。
「うん、わかれば良いのよ、イグナーツ」
「やっぱりお前はマリ……、マリーじゃないか」
マリナスがまた杖を振り上げたのを見て、イグナーツは慌てて言い換えていた。
すると満足そうにマリナスは頷く。
「本当に久しぶりね。ポポルがドジャーノの仲間になったって時は一緒について行ったのかと思ったけど――」
「誰が国を捨てるか」
「うん、あなたはそういう人よね。本当に何も変わらないわね。……むさ苦しいところも」
それだけ言うとすぐにその視線をシャロに戻していた。
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