第21話 酒場開店
直々に任命をした後、シャロは店の準備を始めていた。
「本当にアルフ様は急なんですから……」
「すまない。ただ、この仕事はシャロにぴったりだから……。ギルド長と酒場の兼任は……」
「ギルド長なんてできる気がしませんよ。だって、私、ろくに戦えないですよ? ギルド内で暴れられたらどうするのですか? 冒険者って野蛮な人が多いって聞きますし……」
「大丈夫だ、そんなときは魔王を酒場に案内すると良い。それで全て解決する」
「い、嫌ですよ。自分が働いているところなんてお父様に見せられないですよ……」
シャロが頬に手を当てて恥ずかしがっていた。
「あのな……、俺の従者も立派な仕事だぞ……。あのときは普通に魔王と会っていただろう?」
「うっ、そういえば……。お父様も妙にニコニコしていたし……」
「だから気にせず使えるものはどんどん使うといい」
「わ、わかりました。それじゃあ困ったときにはお父様を呼ばせていただきますね」
さて、これで冒険者達が楯突いてくることはないだろうな。
背後に魔王がいるとわかってるんだから、下手なことをすると殺されると思ってくれるだろう。
「それにしても、こんな場所を使わせてもらっても良いのですか? 城下町の中央にある大きな二階建ての建物……。いくらでも使いたい人はいたんじゃないですか?」
「まぁ、ギルド兼酒場だからな。目立つ場所のほうが客入りも良いだろう?」
「それはそうですけど、本当にお客さん、来てくれるんですか……」
「大丈夫だ。きっとすぐに集まる」
魔王が絶対に行くだろうからな。それに釣られて他の奴も入るはずだし。
「わ、わかりました。頑張ります。……あっ、そういえばお酒も仕入れておかないとダメなんですね……。食材はどうにかなりますけど、そっちはどんなものを仕入れたら良いのかわからないです……」
「――適当に安いものを大量に仕入れて高く売れば問題ないぞ」
「安いもの……。えっと、どのくらいで売ればいいんでしょう?」
「そのあたりは商人と相談だな。あまりかけ離れた値段にして売れなくなるのも困る。売れるギリギリの高さで売るだけだな」
「わ、わかりました。それじゃあ商品を買うときに商人さんに相談しておきます」
「あとは――何がいるだろうな」
「冒険者ギルドなんですから、依頼がいるんじゃないですか?」
依頼か……。
頼みたいことはいくらでもあるが、依頼の難易度等の設定はシャロに任せるべきか。
「当面は俺が頼みたいことを準備しておこう。シャロは依頼の難易度、達成報酬、ギルドの取り分の割合、あとは失敗時について考えておいてくれ」
「……失敗したら何かあるのですか?」
「もちろんそのときは違約金をもらうに決まってるだろう? そうでないと無理に難易度の高い依頼を受けようとする奴が現れるからな。この違約金は大体報酬の一割くらいだ。これは依頼を受領するときにまず契約金として払ってもらって、成功したならそのまま返して、失敗したときにはそのままギルドがもらう……と言った感じになる」
帝国にいたときに見たギルドの報酬等を参考にしながらシャロに提案してみる。
「うーん、なんだか失敗した上にお金まで取るのは気が引けますね……」
「むしろ難易度の高い依頼を受けさせて、怪我や下手をして死なれて見ろ。そのほうが大変だろう?」
「そ、そうですね。怪我をされる可能性もあるのですね……」
「そういうことだ。だから、これは絶対に設定しておけ」
「わかりました。ただ、私一人で回していけるかな……。少し不安です……」
「……そうだな。人は増やしていかないと回らなくなるだろうな。そのあたりはシャロが好きな人を雇ってくれたら良いからな」
「ふぇっ!? わ、私が雇うのですか!?」
「もちろんだ。だってシャロがギルド長……だからな」
「うぅ……、やっぱり自信がないですよ……」
シャロが不安そうな表情を見せてくる。
「まぁ、実際にやってみてくれ。最初の日は俺も手伝いに行ってやるから――」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございます」
シャロが大げさに頭を下げてくる。
冒険者達がどんな仕事をするのか、確認はしておきたいからな。
依頼として準備するのは魔物討伐、城の清掃、畑の手伝い……っといったところか。
なるべく魔物討伐を多めにして、その素材と交換に依頼料を払う感じにしておくか。
「とりあえず今はこのギルドの準備を早くしないとな」
「わかりました。頑張ります!!」
◇■◇■◇■
数日間準備を行った上でいよいよ冒険者ギルドが開店となる日。
シャロは緊張でガチガチになったまま、開店時間が来るのを怖々とした様子で待っていた。
「あ、あの……、やっぱり私なんかがギルド長なんて……。だ、誰も来てくれなくなりますよ……」
「大丈夫だ。ゆっくり待ってろ」
「うぅ……、本当に大丈夫かな……」
ジッとしていられずにそのあたりを行ったり来たり歩き始めるシャロ。
「大丈夫だ。シャロなら……」
そんな彼女を安心させるように俺は笑みを見せながら言う。
「それよりもそろそろ開店時間だな。開くぞ?」
「は、はい、お願いします……」
ゆっくり扉を開いていく。
すると、外にはすでに何人もの冒険者達が並んで待っていた。
「おっ、ようやく開いたか。待っていたぞ」
「どんな依頼がある? そろそろ懐が心許なかったところだ」
「俺はまだ金に余裕があるからな。今日は一日飲むぞ!」
「くっ、これだから高ランクの魔物を倒した奴は……。俺たちもさっさと依頼を達成して酒を飲むぞ!!」
雪崩れるようにギルドに入ってくる男達。
「わっ、わっ、じゅ、順番に……。順番に並んでください……」
それを見たシャロが慌てふためきながら対応をしていく。
「えっと、受付は嬢ちゃん一人なのか?」
「あっ、はい。そもそもこのギルドには職員は私一人しかいませんよ。だから私がギルド長なんです」
「そうか……。元々ギルドがなかったところに無理矢理開いてもらったわけだから贅沢は言っても仕方ないな。おいっ、お前達! しっかり並べ!!」
冒険者の一人がそう叫ぶと自然とシャロの前に依頼書を渡す人たちの列が出来上がった。
「あ、ありがとうございます。では一人ずつ依頼書の確認をさせていただきますね。冒険者証も合わせて出していただけますか?」
シャロの言葉と同時に列に並ぶ男達が前もって冒険者証の準備をする。
「依頼は失敗したときには違約金が発生します。絶対に無理な依頼は受けないでくださいね。あとあと、怪我もしないでください! 私を心配させないでください……」
「あ、あぁ、わかった……」
冒険者は頭を軽くかきながら苦笑を浮かべる。
それと同時に何人かの冒険者は依頼書を見て慌てて別の依頼を取りに行っていた。
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