第20話 冒険者
フルールが去ってから十日ほど過ぎた。
さすがにまだ何も連絡が来ないだろうなと思っていたのだが、突然イグナーツの大声で起こされる。
「アルフ様、今よろしいでしょうか!?」
扉を挟んでいるはずなのに耳鳴りするほどの大声と、壊れそうなほど強い力で扉が叩かれた音に驚いて飛び起きる。
初めは敵襲でもあったのかと周囲を警戒したのだが、どうやらそんな感じではなかった。
「イグナーツ、何かあったのか?」
軋む扉を開けるとイグナーツはホッとした様子ですぐに敬礼をする。
「朝早くから申し訳ありません。帝国からこの国に派遣されてきた人たちがやってきたのでご報告に上がりました」
「……やけに早くないか? まだフルールが帝国に戻ったくらいじゃないのか?」
「おそらく契約書をしたためて、すぐに魔法で知らせたのかと――」
「まぁ、こちらとしても労力が増えるのは助かる。一体どういった奴らが来たんだ?」
「――それはお会いしていただいたほうが早いかと」
「……わかった。応接間……はせまいな。謁見の間の準備をするようにシャロに伝えておけ。その準備ができ次第会わせてもらう」
「はっ、かしこまりました」
イグナーツが急いで外に出て行く。
さて、いったいどんな奴らが来たのだろうか?
おそらく周囲の捜索が得意な奴らだと思うが――。
◇
しばらくして、シャロが謁見の間の準備が出来たと言いに来たので、そのまま一緒に向かう。
「えっと、アルフ様。その格好でよろしいのですか?」
「……? どういうことだ? いつもどおりの格好をしているが」
「お父様とかは謁見の間を使うときは無理に魔王らしい格好をしていましたよ?」
「あぁ、そういうことか。それなら必要ない。別に俺は王ではないからな。政治を任されているだけだ」
「でも、それらしい格好はいるんじゃないですか? 自国の人じゃないんですし――」
「いや、今回は応接間だと狭そうだから謁見の間を使うだけだからな。普段通りで構わない。シャロもいつも通りにしてくれたら良いからな」
「は、はい……。えっ、私も行くのですか!?」
なぜかシャロが驚きの表情を見せていた。
「当然だろう? 俺の従者だろう?」
「そ、そうですよね。でも、私に何が出来るのでしょうか? 護衛ならイグナーツさんがいますし、難しいことはポポルさんが解決してくれます。……私がいる意味ってないなと思いまして……」
「そんなことないぞ。シャロは十分に役に立ってくれている。今回も急遽謁見の間を準備してくれたり、魔族との友好を結べているのもシャロのおかげだからな」
「で、でも、それだけしか――」
「そう思うのなら、もっと出来ることを増やしていけば良いんじゃないか?」
「……!? そ、そうですよね。頑張ります!」
「それよりも今回来ているのは大体何人だ?」
「二十人ほどだと思います。全員軽装ですけど、しっかり武器を持っていて、おそらくそれなりに戦える人たちばかりかと――。一応武器は預かってもらうようにイグナーツさんに伝えてあります」
「あぁ、助かる」
何も言わずに必要なことをしてくれているだけシャロには助けられているんだけどな。
まぁ、今以上働いてくれるのなら俺としても何も言う必要はないか。
そして、謁見の間にたどり着くと入る前にシャロに確認をする。
「それじゃあ入るぞ」
「はいっ」
シャロの緊張した返事を聴いた後、俺はゆっくり扉を開いた。
◇
謁見の間に入るとゆっくり王座の前へと歩いて行く。
その途中で帝国の人たちを横目で見る。
確かにシャロの言った通り、直属の兵士……というよりは傭兵のようなタイプだが、全員がそれなりに戦えそうな雰囲気を持っていた。
そして、王座の前に来るとそこに座ることなく、帝国の人たちのほうに向く。
「よくユールゲン王国に来てくれた。私はアルフ・ユールゲン。この国の政務を任されている。契約では一年ということになっているので、それまでの間、よろしく頼む」
「はっ、かしこまりました」
俺が声を上げると皆、膝をつき頭を下げてくる。
「顔を上げてくれ。それでお前たちの配置だが――」
「その点についてアルフ殿下にお願いしたいことがありまして。発言のほう、よろしいでしょうか?」
一番前にいた男が聞いてくる。
イグナーツやポポルは俺の話を遮って口を出してきたことに不満を持っているような顔つきをしていたが、希望があるなら聞いておきたいな。
「なんだ? 言ってみるといい」
「はい、我々は帝国では冒険者ギルドで働いておりました。それぞれがランクB以上で、出来ればこの国でも冒険者稼業をしたいと思うのですが――」
冒険者か……。
本来は開拓メインにその道中の危険を排除していた者達だが、現在は依頼があったものを解決する……という何でも屋的なギルドだな。
あれば便利だが、それは同時に依頼のために自由にこの国を歩かせることを意味する。
そうなると俺が知らないうちにマリナスを見つけ出して、帝国に報告するかもしれないな。
そうならないためにもギルド内に誰か置いておきたいな。ギルド長として……。誰がいいだろうか。
すでにジャグラには畑を任せているし、イグナーツは兵士たちを。
戦力に秀でている二人のどちらかを置きたかったが、仕方がないか。
そうなるとポポルか?
視線をポポルに向けると、彼女は首を振っていた。
そして、俺に近づいてくると小声で言ってくる。
「これはちょうどいいね。シャロに任せてはどうかな?」
「シャロか……」
確かにポポルもダメとなるとシャロしか任せられる人物はいない。
でも、彼女に出来るだろうか?
隣に控えているシャロに視線を向ける。
「えっ、わ、私ですか!? そ、そんなこと出来ないですよ?」
「シャロはそこまで深く考えなくて良いわよ。ただ、ニコニコしながら帰ってきた冒険者の人を労えば良いから。……そうだ、シャロは料理も上手いからギルド長と酒場を兼任したら良いかもね」
「よし、それで行くか。シャロは出来そうか?」
「そ、そうですね。酒場のほうならなんとかなると思うんですけど、冒険者の人たちをまとめることは――」
「いや、酒場さえまとめられたら十分だ」
おそらくシャロが店を開いたとなると魔王が見に行くはずだ。
料理屋なら確実に料理をおいしそうに食べるはず……。
そうなるとシャロが魔王の娘……とまではわからなくても知り合いというところまでわかる。
わざわざ魔王に喧嘩を売るような冒険者はいないだろうからな。
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