第17話 周辺確認

「アルフ王子、ちょっといいかな?」



 執務室でいつものように雑務をこなしているとポポルがイグナーツを連れて戻ってきた。

 すっきりした表情を浮かべていることから、どうやらしっかり国王と話をすることができたようだ。

 日によっては面会もできない時があるのでよかった。



「あぁ、何かあったのか?」

「この国の状況について王子と共有しておきたくてね。時間をとってもらえるかな」

「そういうことか。それならもちろんだ。椅子に座ってくれ」



 ポポル達をテーブルの向かいの椅子に座らせると向かい合うように俺も座る。



「ありがとう。それじゃあまず聞いておきたいことなんだけど、この国の兵力、今歩兵が十五人とイグナーツ、それと私で間違いないかな?」

「あぁ、見ての通りだな。それと魔族から助けを借りるくらいだ」

「うん、当面はそれしか方法ないからね。ただ、やっぱり自国は自国だけで守れるようになっておかないと」

「しかし、兵だけではなく全体的に足りてないのが今の現状だからな。今の人口だとこれ以上兵に回すのはきついな」

「だからこそ現状の確認だよ。次に何をしたらいいか、どういったことが起こりそうか、をね」

「今だとポポルの失敗を受けて、ドジャーノが襲ってきたり……とかが考えられるんじゃないか?」

「うーん、ドジャーノは動かすのにお金がかかる自兵は動かしたがらないから……。でも、警戒しておくのに越したことはないね」

「……ドジャーノの領地はここから西に徒歩で約三日ほどの距離だったよな?」

「そうだよ。街道をまっすぐ進んで行った先にあるところだよ。危険な魔物が出るような場所がないから交流はしやすい地域なんだよ。ただ――」

「まぁ、聞いてる限りかなり無茶な税を取ってる奴だからな。おそらく領地に入るのにも税を取っているだろう?」

「うん、もちろんだね。それで今領地にいる人たちは出て行けなくなってるんだよ。今回みたいに貴族の依頼で出て行かない限りね。だからそこの人達は貧困にあえいでいる人が多いんだよ」

「――それならドジャーノさえ追い払えばいい訳か。今の兵力でドジャーノと戦って勝てると思うか?」

「まず無理かな。ドジャーノの私兵は数百いるから。私たちは十七人。イグナーツがいたとしても、まず勝てないね」

「なるほどな。それなら今は力を貯めるべきか」



 早めに排除したいところだが、実際にドジャーノの領地にいたポポルが言うのだから間違いないだろう。



「西はドジャーノの領地を過ぎるとまた別の貴族の領地が広がってるね。ただ、さっきも言ったとおり、税の高いドジャーノの領地を越えてくる真似はしないから、今のところは襲われる可能性は除外して良いかな」

「次は東側だな。城から東にはジャグラが農家達と耕してくれている畑がある。ただ、その先は街道もなく荒れ地となったままだな。そのおかげで畑を広げていけるというのもあるが」

「えっと、この地図を見る限り、その荒れ地の先にはやっぱり別貴族の領地があるね。……あっ、でもダメだね。ここはプライトの領地か……。あいつは嫌いだし」



 ポポルは腕を組み、頬を膨らませて横を向いていた。

 そんな様子に俺は思わずあきれ顔になる。



「いや、好き嫌いじゃなくてな……」

「わかってるよ。前から私のことをなめ回すように見てくるとか、女性を侍らせてまるでもののように扱ってるとか、そのことは一旦置いておくよ」



 ……あぁ、人としてダメな奴か。

 ただ、それだけ侍らしても大丈夫なくらい稼いでる……、とも取れるな。

 うまく扱えるのなら――。



「そいつ、大の魔族嫌いよ。きっと、この国に魔王やジャグラがいると知ったら即攻めてくるわ。幸い、距離がどれだけ急いでも十日ほど掛かるから、今は気づいていないのかも」

「それなら、そいつも警戒しておかないとまずいな。何か対策を――」

「今は荒れ地に堀を作って、馬だと行軍しにくいようにするしかないね。プライトは騎馬部隊で有名な人物だからね」

「それなら早速そっちは対策しておいてくれ」

「うん、ジャグラにやらせておくね」



 自然とジャグラの仕事が増えていた。

 まぁ、畑の周りのことだし、余計な場所を掘ったら怒られかねないから仕方ない。



「ろくな場所がないな。まぁ、だからこそこの国がここまで衰退したのだろうけどな」

「うん、そうだろうね。よくここまで四方をやばいところに囲まれたと思うよ」

「南……は言わなくてもわかるか。かなり危険な魔物が生息する、日の光さえ差し込まないと言われている常闇の大森林が広がっているもんな」

「そういうことだよ。でも、その先に魔族国が続いてるから、他に比べたらマシかな? ちょっと……、ううん、かなり強い魔物が生息してるだけだから」

「それって兵士たちで相手に出来るのか?」

「そうだね。十五人もいるから一匹くらいなら倒せるかな?」

「――全くダメじゃないか! 急にそこから魔物が飛び出してきたらやっぱり詰むじゃないか!」

「大丈夫だよ。そっちはイグナーツで対処できるから――」



 ポポルの隣で眠りについていたイグナーツが呼ばれたことで目を覚ます。



「おっ、出番か!? 任せておけ。魔物の一匹や二匹くらい軽く倒してきてやる!」

「一人で出て行ったらダメだよ! どうせ迷うんだから――」

「あぁ、そのときはポポルも頼むな」

「うん、任せておいて」

「なるほどな。イグナーツが倒せるとなると最悪ジャグラや魔王に頼むことになりそうだな」

「でも、しっかり倒せるとその素材は高値で売買されているからね。収入にはなるかも。一番弱いシャドウダークウルフですら、一体狩れば金貨一枚分くらいの素材を手に入れることが出来るからね」

「それは……ちょっと魅力的だな。でも、イグナーツが怪我したりとかは考えられるのか?」

「さすがにあの森に生息する高ランクの……、ドラゴンクラスになるとね……」

「それなら当面はダメだな。今イグナーツに怪我でもされたら、この領地が落ちてしまう」

「そういうと思ったよ。で、残りの北側――」



 ポポルが話をしようとした瞬間に扉がノックされて、慌てた様子のシャロが入ってくる。



「アルフ様、突然申し訳ありません。帝国の使者という方が来られまして――」

「……やっぱり来たね。ミグニスト帝国……。ここは王子の方がよく知ってるよね。この国の北側に位置する大陸最大の国……。国内は北側の問題はないんだけど……」

「――あぁ、そうだな。もちろん知っている。ポポルとシャロ、イグナーツも一緒に来てくれるか?」

「もちろんです! 私に出来ることでしたら」

「うん、そうなるだろうね。それに魔族のシャロとそれなりに名前の知られた私たちがいた方がいいからね」

「任せてください! アルフ様には指一本触れさせませんよ!」



 みんな乗り気で助かった。

 さて、帝国はどんなことを言ってくるだろうか?

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