第15話 兵士たちの待遇
「アルフ様、遅くなってしまい申し訳ありません。イグナーツ、今戻りました」
俺が姿を見せるとイグナーツは膝を折り、頭を垂れていた。
「いや、頭を上げてくれ。それよりもお前の後ろにいる兵達は?」
「はっ、こちらは――」
イグナーツが説明してくれようとしたが、それを遮るように小さな少女が前に出てくる。
子供……? イグナーツの?
あまり似ていないような気がするが――。
しっかりと黒いローブに身を包んだ少女で、未だに上半身裸のイグナーツと血縁関係にあるとは思いたくない。
「お初にお目に掛かります、アルフ王子。私はポポル・ミュッカ。元この王国で参謀長をさせてもらっていたものです」
ポポル……。イグナーツの副官を務めていた人物で是非とも仲間に引き入れたい人物だ。
でも、どうしてこんな子供に? いや、よく見るとハーフリングなのか。
背丈の大きさがそのまま年齢とは限らない訳だ。
「それでそれだけの数の人を率いてどうしたんだ?」
「アルフ王子には申し訳ないのですが、この国を攻め落とそうとしていました。ただ、この通りイグナーツによって制圧されまして――。私はどうなっても構いませんので、一緒に来た兵士たちの命だけは――」
いやいや、ポポルの命を奪ってどうなる。
そんなこと損失しかない。
いや、好きにして良いのか。それなら――。
「わかった。それじゃあ、ポポル!」
「は、はい……」
ギュッと目を閉じてギュッと服を握りしめる。
「ま、待ってくれ! いえ、待ってください! ポポルはその……、確かに兵を連れて襲ってきましたが、それでもポポルを助けてくれませんか!」
イグナーツが必死になって、ポポルの隣で頭を下げてくる。
「ポポルにはこれからイグナーツの補佐として、参謀長を任せる! 何でもすると言ったのだから断らんよな?」
「えっ? ちょっと待ってください。私……、その……、この国を攻めようとして――」
「……いや、別に攻めようとしてないだろう? 百人の兵を連れてこの国に仕えようとしてくれたんだろう? ならばその功績に報いるのが俺の役目だ」
「えっ、えっ?」
困惑したポポルが顔を上げて回りをキョロキョロと見渡す。
「なんだ、我らの出番はなしか――」
魔王達がゆっくり俺の隣へと向かってくる。
「そうだな。どうやら俺の早とちりだったようだな。すまなかったな」
「いや、それは構わないぞ。どうせ我はシャロの飯を食いに来ただけだ」
「俺は畑へと戻るかな。そろそろ種を植えていかないといけないからな」
「……ちょっと待って。魔族幹部のジャグラと……えっ、魔王?」
「あぁ、そういうことだ。ただ、見ての通りだな。魔王達にこの国を襲う意思はない。
むしろ再興の手伝いをしてくれているんだ」
「我はシャロの飯さえ食えれば――」
「お父様は黙っていてくださいね!」
「はい……」
シャロが鋭い視線を見せると魔王が小さくうずくまっていた。
「今は使えるものは全て使わせてもらうからな。当然ながらポポル、お前も腐らせるつもりはない。我が国のために働くと良い」
「は、はい。かしこまりました」
◇
これで一気に人が増えたな。
ただ、やはり装備の問題がすぐに出てくる訳だ。
「こいつらはやはり無理矢理徴収された兵士たちなのか?」
「私はそう聞いてます。ただ、見ての通りですから――」
しっかり鍛えられた人たちに比べるとどうしても見劣りする彼ら。
それは装備だけではない。
おそらく兵士として鍛えたこともないのだろう。
「わ、私は元農家の息子でその……税が払えなくなって――」
「お、俺はそもそも働き口がなくて――」
「あんな高い税を取られては俺たちが生活できるはずがないんだ! それなのにドジャーノ様は……」
「仕方ないだろう……。国が定めた税率なんだから――」
各々が思うことを言ってくる。
なるほどな、相変わらず高い税を取っているのか。
それに今回襲ってきたのはドジャーノという貴族らしい。
それならば――。
「お前達の言いたいことはわかった。ただ、安心すると良い。ここではそこまで酷い税を取らないからな。収入の三割を納めてくれればそれで構わない。また、それで生活がきついようなら相談してくれたら良い」
「……!! ほ、本当に良いのですか?」
「あぁ、もちろんだ。金の回収はこのシャロが行う。ただ、不正しようとは思わないことだ。もし、シャロを騙すようなことがあったら――」
俺が少し怯えるような仕草をすると男達が一様にシャロを見て、口をぽっかり開いていた。
「か、かしこまりました。そちらはしっかり払わせていただきます。ですが、仕事の方が――」
「なんだ、元農家だったものがいるのか? それなら何人か連れて行って良いか? 畑ならいくらでも余っている。特に若い力が今は欲しかったところだ」
確かに農家は今高齢者しかいなかった。
今後のことを考えると今のうちに増やしておきたいか。
「あぁ、やりたい奴がいるなら構わないぞ」
「そういうことだ! 畑に来たい奴は俺に着いてこい!」
ジャグラが畑へと向かっていく。
すると三分の一ほどがジャグラの後に付いていった。
「さて、後の奴らはそのまま兵士をするのか?」
「えっと、僕は元鍛冶師でして――」
「あぁ、それなら鍛冶をしてくれて構わないぞ。この国に職人はいないんだ。やりたい奴がいたらどんどん言ってくれ」
笑みを見せながら言うと我先にとそれぞれがやりたいことを告げていく。
やはり兵士をやりたいという人間は少数で十人ほどしか残らなかった。
「兵士になりたい奴はイグナーツに任せるからな。鍛えてやってくれるか?」
「あぁ、任せておけ! きっちり素晴らしい筋肉に仕上げてみせるぞ!」
「あっ、ダメダメ。イグナーツに任せたらみんな逃げてしまうよ。あっ、いえ、逃げてしまいますよ」
慌てて敬語に直そうとするポポル。
どうやらこのしゃべり方が普段の彼女で、敬語は無理矢理していたのだろう。
「話し方は気にしなくて良いぞ。そんなことに意識を回す必要はない。それよりもどういうことだ?」
「簡単なことだよ……。イグナーツ、どんな特訓をするつもり?」
「どんな? まずはランニングだな。体力は全ての基本だ」
至って普通のことを言ってくる。
どこかおかしいのだろうか?
俺が首を傾げていることに気づいて、ポポルが更に聞く。
「それは何日するの?」
……んっ? 単位がおかしくないか?
ランニングなら良くて一時間じゃないか?
「そうだな。最初は軽く十日くらいだな」
「……こういうことだよ」
十日……。どう考えてもおかしい単位だよな。
しかし、イグナーツはそれに気づいていない様子だった。
「……わかった。兵士はポポルに任せる。くれぐれもイグナーツの好きにさせないでくれ」
「うん、わかったよ」
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