第13話 敵襲
「遅い……。いくらなんでも遅すぎる……」
アルフは執務室の中をうろうろと歩き回っていた。
「アルフ様、落ち着いてください。あのお方もここに来るとおっしゃってましたからもうすぐしたら来てくれるはずですよ」
「いや、そもそもあれだけ好意的ならどうしてこの城にいなかったんだ? イグナーツにも何か秘密があるような気がして――」
「……さすがに何か考えていて全裸になるとは思えないのですが――」
「あれは流石に不可解だな。なんで全裸だったのか……」
「とにかく悪い人には見えませんでしたよ」
「……俺を利用しようとするなら逆にこの城に来るはずだし考えすぎか。それにやつほどの力があれば魔物を狩って素材を売る……とかもできるわけだしな」
「そうですよ! それよりも今日は何を見て回るのですか? また巡回について行きますか?」
「いや、今日は城で少し調べ物をする。シャロも手伝ってくれるか?」
「はいっ! わかりました。それじゃあジャグラさんにはそのようにお伝えしておきますね」
シャロは嬉しそうに返事をする。
そして、急いで部屋を出ていったので俺は兵の詰所だった場所へと向かっていった。
◇
城の中の一室に詰所がある。
ここは以前たくさんの兵が詰め寄せ、周りの危険に対する対策を連日話し合ってたようだ。
今はもうボロボロの机くらいしか置かれていない。
ただ以前ここにいた兵士のリストだけは残されていた。
あのイグナーツからは想像できないほど、キチンと書かれている。
それもそのはずでこれをまとめていたのはポポルという人物のようだった。
兵士のリストで見た限りだとこの国の参謀長を担っていたようだ。
そいつがイグナーツの副官として付き従っていたようだ。
……もしかして、イグナーツがまともに将として働けたのはポポルという人物のおかげなのか?
それならイグナーツが今までどこで何をしていたかも説明がつけられる。
ようは能力の全てを筋肉に振っているような感じなんだな。
だからこそ常に誰かの補佐がいる。
……もしかして方位もまともにわからないのか?
いやいや、直ぐ近くに城が見えていたのに帰れないなんてことがあるのか?
……全裸姿だったイグナーツを考えたらそれすらもありえる気がしてきた。
それならば彼一人雇っても全く意味がないではないか。
ポポルという人物も探し出さないと……。
兵士のリストを見ていると俺の隣から同じように兵士のリストを覗き込んでくる人がいた。
シャロが戻ってきたのだろうな……。
そんなことを考えながら横に振り向くとそこにいたのは魔王で、思わず俺は後退りしてしまう。
「んっ? どうしたんだ?」
「……どうしてここにいる、魔王!?」
「今日は作業が押して来る時間が遅くなっただけだ」
「……忙しいなら無理に来なくてもいいだろ。魔族国までかなりの距離があるはずなのに」
「おや、言ってなかったか? この国との交流をしやすくするためにこの城の地下に転移の魔法陣を配置してある。まぁ、転移はかなり膨大な魔力を使うので、我以外は使うことができないがな」
魔王が高笑いをしていた。
まぁ、今後の交流を考えたら確かに便利だが、この魔王、この魔法陣を飯食うためだけに使ってるな……。
「それだけ魔力を使って大丈夫なのか?戦いとかで苦戦しそうな感じがするけど……」
「往復分の魔力を使ってしまったら、さすがに勇者の相手は厳しいな」
「そこまでして、わざわざシャロの飯を食いにくる必要がないだろう?」
「いや、むしろ絶対に必要だ! それがないと我の力は十分の一になってしまう」
「まぁ、そこは俺に影響がないから良いけどな」
「うむ、それよりもこんなところでのんびりしてて良いのか?」
魔王が不思議そうに聞いてくる。
「……どういうことだ?」
「それはだな――」
「アルフ様! 大変です、この城に向かって百人くらいの兵が向かってきてるらしいです!!」
シャロが慌ててこの部屋に入ってくる。
その隣にはもう農家にしか見えない格好のジャグラがスコップを片手に付いてくる。
ただ、魔王の姿を見た瞬間にその場でひざまずいていた。
百人……、一体誰が?
俺のことを邪魔に思った貴族の誰かだろうな。
「魔王、約束通り力を借りるぞ!」
「んっ? 我が参戦して良いのか? 力を貸すのは構わないが、我が出てしまっては諸侯から魔族の従国として扱われて、同じように討伐されかねんと思うが?」
「そんなことを言ってる場合ではないからな。あと、もちろんジャグラの力も借りるぞ! それとこの町にいる兵士たちは――」
「さすがにまだ使い物にならないな。下手に来られるよりは私たちで蹴散らした方が早いですよね、魔王様?」
「うむ。しかし、今の我はジャグラの倍程度の力しか出せないぞ? それでいいのか?」「もちろんでございます。では、すぐに戦闘の準備を開始しますね」
ジャグラは意気揚々と部屋から出て行った。
その後、俺は窓から外を眺める。
誰かが襲ってくるような不穏な空気はなく、スカッとした雲一つない青空が広がっている。
「襲ってくる奴らは直属の兵か……、即興で集めた寄せ集めか……。それで動き方が変わるな。直属ならば魔王達に手を借りて速攻倒すしかない。しかし、寄せ集めならば――」
このあたりでこの国を攻めてたらどうなるかを見せつけておきたいし、徹底的にやるか。
それに勝った上で被害でも出たなら、がっつり搾り取ることも出来るだろうからな。
にやり微笑みながら窓から見える遠くの景色を眺めていた。
◇■◇■◇■
「服……、服になりそうな草はどこだ!!」
イグナーツは草原を、相変わらず全裸のまま猛ダッシュして回っていた。
本人は服になる草を探しているつもりなのだが、その凄まじい勢いによって草や葉は飛んでいき、ろくに何も残されていなかった。
「くっ……、早くアルフ様の元に戻らなければ魔族のやろうが何をしでかすか……、んっ?」
回りを必死に見て回るとたくさんの、ボロボロの鎧や剣を持った兵士がやってくるのを発見する。
これ幸いとイグナーツはその人たちの下へ走って向かっていく。
全裸の男が猛ダッシュで向かってくることを兵士側から見たらどう捉えられるかも考えずに――。その結果――。
「敵だ! 敵襲だ!! 武器を構えろ!!」
兵士たちは慌てて武器を構えていた。
そして、それを見たイグナーツも事態をようやく把握する。
「もしかして、我がユールゲン王国を攻めてきた敵か? アルフ様に仇なす敵なら容赦はせんぞ!」
グッと拳を握りしめて、近くにいる兵から吹き飛ばしていく。
兵士たちは為す術なく半数が吹き飛ばされて意識を手放す。
「い、一体何が起こったの!? 状況を教えて……。あっ、イグナーツ……」
事態の把握に努めようとしたポポルがイグナーツの姿を見かけて、ようやく状況を把握した。
そして、しばらく二人は視線を合わせていた。
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