第10話 巡回兵
「勇者として送り込んだ奴らが全滅したみたいです……」
貴族の館で戦々恐々とした様子で報告する兵士。
しかし、当の貴族は顔色一つ変えずに淡々とした様子を見せていた。
「そうか……。まぁ、相手が魔王なら奴らじゃ刃が立たないことはわかりきっていたからな。あの城くらいなら落とせると思ったが―」
「それがその……、あのままユールゲン王国の兵として居残った奴らがいるみたいです。早く手を打たないと手遅れになります。兵を率いて戦争でも――」
「馬鹿が! 戦争なんてしたら私の金を浪費してしまうだろう! それに集まった奴らが
貴族がニヤけた表情を見せる。
しかし、すぐに兵士が側にいることに気づき、怒鳴り出す。
「お前は余計なことを考えている暇があったら金を集めてこい! そろそろ税を納める時期であろう」
「いえ、まだ半年先ですよ?」
「それなら理由を付けて取ってこい!」
「は、はっ!!」
兵士は慌てて部屋を出て行く。
「全く……、奴らは金の大切さをわかっておらん。この金色に輝く硬貨……。高貴な貴族である私にこそふさわしい。下々の者なんて私に金を運んでくるだけの価値しかないのだからな」
金貨を手に取りうっとりとした様子を見せる貴族の男。
「誰が金を使ってやるか。そんなことをしてはこの金が減ってしまうではないか。金は増やすものであって減らすなんてもってのほかだ……」
◇■◇■◇■
「ふぅ……、助かりました……」
鎧を脱がせてもらったシャロはホッとため息を吐いていた。
「まぁ、この装備を俺たちが使うことはないからな。それでもどのくらいの重さがあるのかを知ることが出来て良かった」
意外と長期の労働は難しいだろうな。それにしっかりとした休みも必要だ。
でないと疲れが溜まって、逆に効率が落ちかねない。
その辺りも調整して仕事をさせる必要があるな。
「それじゃあこの装備はどうしますか? 持ち運びも出来ますし、そのまま持って帰っても良いですよ」
「それなら持って帰る……、いや、運んでもらっても良いか?」
「わかりました。装備はお城の方に運ばせてもらえばよろしいですよね?」
「あぁ、よろしく頼む」
装備の手配は出来た。
ただ、全員分なかったので余っているやつはどうするか……、そのことを考えていた。
「とりあえずジャグラにも相談してみるか」
そこで俺たちは畑の方へ向かっていく。
◇
「おらっ、もっと腰を入れろ! そんなことで畑を耕せると思うなよ! おいっ、そっち、肥料を一カ所に与えすぎだ! もっと均等に混ぜていけ!! そこのやつ、もうへばったのか!? もっと鍛えろ! とりあえず木陰でしっかり水分を取って休んでいろ!」
ジャグラが必死に声を出して男達に指示を飛ばしていた。
汗水垂らしながら必死の形相で畑を耕す男達。
そのおかげで少しずつではあるが耕せた畑も増えてきている。
しかも、肥料も混ぜているので今後の収穫は期待できるかもな。
「おっ、もう戻ってきたのか? それでしっかり装備は買えたのか?」
ジャグラが尋ねてくる。
やはり、何を買うのかまでバレていたようだった。
「全員分は買えなくてな。とりあえず三人分だけだ。本当なら個別に買いたかったが、当面は使い回してくれ」
「……そうだな。この様子だとずっと働き続けるのは厳しそうではあるからな。適度に休みを挟む必要があるだろうな」
ずっと農作業をしていて結局全員が腰を下ろして息を荒げていた。
「の、農作業をほとんどしたことがないからだ……」
「た、戦いならば――」
「よし、それなら実際に特訓をしてみるか。俺は……そうだな。この木の棒でいいぞ」
ジャグラがその辺に落ちていた木の棒を手に取る。
「くっ……、なめているのか?」
「いや、お前達、以前にクワで倒しただろう? それより弱いものとなるとこれくらいしかないんだ」
「いいだろう。俺が相手をしてやる」
男の方は以前同様にボロボロの剣を取り出していた。
「えっと、止めなくて良いのですか? あの人、怪我をしてしまいますよ?」
シャロが男の方を心配する。
まぁ、俺も同じ気持ちだし仕方ないか。
あいつらにジャグラを倒すイメージが沸かない。
「はぁ……。とりあえずシャロ、城に確か治療用の道具があったよな? それを持ってきてくれ」
「か、かしこまりました」
シャロが慌てて城に戻っていく中、俺は近くに腰掛ける。
そして、勝負はあっという間についていた。
「やはりまだまだ兵士として外に出すには不安だな」
相手がジャグラということもあるが、下手に怪我でもされたら治療費が掛かって仕方がない。ただでさえこの国に残っている医者もほとんどいないというのに……。
「お待たせしました。医療セットを持ってきました!」
シャロが木箱を持ってくる。
「よし、怪我した奴に包帯でも巻いてやってくれ」
「か、かしこまりました」
シャロが慌てて包帯を取り出して、巻いてくれている間に俺はどうやって彼らを鍛えるか考える。
ジャグラに特訓してもらうのが一番良いのだが、彼には畑の仕事もある。
ジャグラと畑を見比べながら顎に手を当てて悩んでいると、ジャグラが眉をしかめていた。
「おい、俺は元々畑担当じゃないぞ?」
「やはり、実践で鍛えていくしかないか。でも近場にそんなところがあったか?」
この城の近くに何かあったかと考える。
さすがに以前のこの国なら兵士が定期的に巡回して、危険な場所は近くにはなかった。
でも、今はろくに整備がされていないので、どんな危険が潜んでいるかもわからない。
「よし、お前達にはこの城付近の巡回を任せる。どんな危険が潜んでいるかわからないからな。注意して回ってくれ。……ってシャロ!?」
男達の方を振り向いたら、なぜかそこには包帯でグルグルに巻かれたミイラがいた。
顔だけはかろうじて出ているが――。
「どうかしましたか?」
「どうして全身を巻いているんだ? あまり無駄遣いをするな」
「あっ、す、すみません。どうにも包帯を巻くのは慣れなくて……。その、お父様とかはほとんど怪我をされることがありませんでしたから――」
よく考えると魔族……、特に魔王なんて早々怪我をすることがないか。
「それもそうだな。それじゃあ包帯は自分で巻いてくれ」
「あっ、俺が巻いても良いですか?」
男達の中から一人手を上げてくる。
まぁ、誰が巻いても一緒だろうからな。
「あぁ、構わないぞ。それじゃあ頼んだ。あと、最初の巡回は俺やジャグラも同行する。一応危険はないと思うけど、この城の周囲がどうなっているか見ておきたい」
一応街道は人が通るからか問題なかった。
でも、そこから逸れたところはどうなっているか見当もつかないからな。
「かしこまりました。ではよろしくお願いします」
男達が頭を下げてくる。
そして、ジャグラからはまた文句の声が上がるのだった。
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