第9話 形だけの商店
よし、あの貴族のおかげで一気に人員を確保できたぞ。
しかも、みな勇者を目指すくらいなのだから、それなりに戦闘力には自信があるはずだ。
ただ、装備の新調は必須だな……。
国を守る兵士がボロボロの剣や鎧を付けているとなると他の国に馬鹿にされかねない。
「ジャグラ、その農具にかかる費用は?」
「……そうだな。金貨八枚でいいぞ」
ジャグラは俺と男達を見比べたあと、深くため息を吐いて答える。
その表情を見る限り、実際はもっと金がかかっているであろうことは予想が付いた。
「……助かる。また金が出来たときに残りの分は払わせてもらう」
「いや、ちょうど金貨八枚だ。それ以上はいらねーぞ!」
きっぱり言い切ってくるジャグラ。
「わかった……」
ジャグラが強く言い切ってくる以上、それ以上こちらから言うのも悪いだろうな。
それでも残り金貨二枚……。
やってきた男達の数は五人ほど……。
全員分の装備を一新するのは厳しいか?
「とりあえず商店へ行ってみるしかないな。ジャグラ、この場は少し任せてもいいか?」
「あぁ、任せろ。ちょうど畑の方で人手が欲しかったんだ」
本当はこの場で見ていてくれってことだったんだが、まぁジッと待っているよりは少しでも働いてもらった方がいいか。
◇
俺とシャロは二人で商店へとやってきた。
ただ、どういうわけか商店の扉は閉まっていた。
……? まさか以前言っていた閉店を……?
いや、そんなことはないはずだ。税を減らすという手段は俺だけでなく、商人にもメリットがある。
つまり、何かの用で出かけているだけなのか?
閉まっている商店の前で首をひねらせていると町の外から商人がやってくる。
「これは、アルフ様……。どうかされましたか? また何かお売りに来られたのですか?」
「いや、兵士達の装備について相談しようとしてきたのだが――」
商人の方に振り向くと彼は山のように大量の商品を馬車で運んでいたところだった。
「……その大量の商品は一体? まだそれだけの量を買うほど、この国には人がいないだろう?」
「いえ、これは他の商人に売るためのものです。税が安いのでどんどん儲けが出まして……。また国に納める分は準備しておきますが。あと、アルフ様にはこれを確認してもらいたかったのですよ」
商人は馬車の中からたくさんの紙束を渡してくる。
「これは――?」
「この国に来たがっている商人のリストです。さすがに数が多すぎて、全員に来るようには言えなかったので指示をいただけましたら、その者に声をかけさせていただきます」
紙を軽く眺めていくと様々な商人の名前や売っているもの、所属ギルド等が書かれていた。
しかもわかりやすいように販売品を揃えて書いてくれている。
これだけでも手間がかかるのでは……と予想が付いた。
「わざわざすまないな。助かる」
「いえ、散々儲けさせてもらっていますからね。このくらい働いても罰は当たらないですよ」
商人が笑みを見せてくれる。
その表情を見ると儲けているという言葉に嘘偽りはないようだ。
「わかった。それじゃあ城に戻り次第、このリストは見させてもらう。ただ、その前に一つだけ質問だ。この中でこの国に店を構えてくれる商店はいくつあるんだ?」
「……なるほど、そこに目を付けられますか」
「当然だな。国民数に直結するからな」
「……そうですね。大体この中で一割もあればいい方かと思います」
「つまり他の商店は大通りに店を構える必要がないんだな。この国にさえ店があれば……」
「はい、そういうことですね」
俺と商人がほくそ笑みながら会話をしているとシャロが首を傾げながら聞いてくる。
「あの……、どうして店を構えないのにこの国に商店を置くのですか?」
「それは、この国だと税がかなり安いからな。商人の手元に入る金額は利益から税金を引いた分になるんだ。つまり税が安い方が商人は儲かるんだ」
「……? えっと、でもこの国には住まないんですよね?」
「あぁ、住まずに商売だけこの国でするんだ。つまり、人は増えないが金は入ってくる」
「な、何もしなくてもお金が入ってくるのですね」
「いや、問題は色々とあるだろうがな」
俺は商人の方を向くと彼は苦笑を浮かべていた。
「まぁ、商人ギルドから色々と言われてはいますね。この国にはギルドがないから商人がいくら売ったところで商人ギルドには収入が入らないから仕方ないんでしょうけど……」
「すまないな」
「いや、儲けるためですから仕方ないですよ」
「そうか……、それならこれからも頼んだからな。人が増えたら更に言われるだろうから」
下手をすると商人ギルドだけではなく、別の国が直接乗り込んでくるかもしれない。
そこをうまく言いくるめてもらわないとな。
「さすがに私一人では攻めてこられたらどうすることも出来ませんよ? それに国のトップクラスが出てくるならアルフ様にはどうしても来てもらうことになりますが――」
「そのときは仕方ない。言ってくれたら準備していく」
ただ、最低限身を守るための護衛は準備する必要があるだろうな。
魔王でも連れて行くか?
ジャグラでも大丈夫だろうが、話を優位に進めるにはそのくらいの衝撃を相手に与えるべきだろうな。
「それで最初の相談に戻るが、この店で兵士の装備を一式購入しようとするといくらくらいかかる?」
「兵士の装備一式ですか……。例えばですけど、この鉄製のロングソードでしたら一本で銀貨四十枚です」
商人が馬車の中からシンプルな剣を取り出して見せてくる。
兵士に持たせるのなら最低このくらいは欲しいだろうな。
しかし、銀貨四十枚か……。さすがに結構な値段がするな。
「鎧の方ですと、この全身を覆うタイプのプレートアーマーがよろしいかと。同じく鉄製で銀貨六十枚ほどになります」
合計で一人金貨一枚か……。
さすがに結構な値段がするな。
「金貨二枚で五人分を揃えることは出来ないか?」
「さ、さすがにそこまでは厳しいです。アルフ様にはお世話になってますから、頑張らせてもらって……、それでも金貨二枚では三人分が精一杯になります」
ちょうど一人分まけてもらった形になる。
相手も商売をしているわけだから、これ以上言うわけにはいかないか。
「わかった。それじゃあ、三人分もらっても良いか?」
「かしこまりました。では、少々お待ちください。今準備しますので」
それだけ言うと商人は店の中に入っていき、剣と鎧を準備してくれる。
ただ、それをなぜか俺たちに着させていった。
「ちゃんと着れるかどうかも確認しておかないといけませんからね」
「いや、俺が着るわけでは……、ぐっ、意外と重いんだな」
全身鎧の格好はしたことがないが、意外とずっしりくる。
身動きが取れないほどではないけど、これだと機動性が失われるかもしれないな。
「あ、アルフ様……、動けないです……」
シャロのほうからうめき声が聞こえてくる。
そちらを振り向くと完全に固まって立ち止まっているシャロの姿があった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます