第8話 勇者達の襲来
「くくくっ、ずいぶん集まったではないか」
貴族の男は勇者として集められた男女問わない若者達をみてにやつき顔になっていた。
「えぇ、さすがに魔王討伐の報酬につられる人間が多いみたいで」
「報酬、金貨百枚と兵士長の地位を約束する……だったか? あんなもの、ただの口約束で守るつもりすらないというのにな」
「本当にそうですよね。万が一魔王を倒すことが出来ても、あれは魔王じゃなかった、とかいうのですよね」
「こらこら、違うだろう? あくまでも本当に魔王じゃなかったのだから」
「おっと、そうでしたね。本当の魔王討伐の報酬ですもんね」
「くくくっ、そういうことだ。武器や防具の類はあの城から運んできたのを適当に配っておけ。錆びていたり、ろくに切れないボロ剣だが、武器を配って誠意を見せるんだ。全く懐の痛まない誠意をな」
「かしこまりました。早速配っていくことにします」
兵が出て行った後に貴族の男は窓の外を見て笑みを浮かべていた。
「魔王は無理でも邪魔をしてきそうなユールゲンの王子は妨害できそうだな。それにしてもあの無能国王から、あれほど優秀なものが生まれているとは――。いや、だからこそ国外に留学させて隠していたのか……」
◇■◇■◇■
「農具に関してはこのくらいか。一応次に魔族国に戻ったときに準備してくるが、当面はこの道具を使うしかないだろうな」
ジャグラが眉をひそめながら道具を持ち上げていた。
「生活に直結する農具ですらこの様子なら、他のものももっと酷いんじゃないのか? 武具はしっかり揃っているのか?」
「まぁ、その兵士自体が今はいないからな」
「……はぁ?」
ジャグラが思わず聞き返してくる。
「すまん、今なんて言った? もう一度教えてくれ」
「今この国に兵士なんていないぞ? 攻められたら一瞬で終わるな」
「ちょっと待て! それでシャロ様の時に戦争のことを言っていたのか? 死ぬつもりだったのか?」
「事実戦争にはなってないだろう? しっかり兵士がいるように見せる策だからな」
「……この国が本当にやばい状況なのはわかった。今攻められたら簡単に落ちるな」
「だからそのときは頼むな。ジャグラだけが頼みだからな」
ジャグラの肩を叩く。
「ちょ、ちょっと待て! 俺は畑作業をするんだろう? そんな防衛まで――」
「この国に取るようなものはないから、当面は大丈夫だろう。それに人が少なすぎて兵を集めることも出来ないんだ。だからこそのジャグラ達魔族が頼りなんだ」
「……仕方ない。これも魔王様のご命令だから、出来ることはする。それに魔王様を狙ってこの国を襲ってくる奴が出てくるかもしれないからな」
◇
それから数日後。
城下町にボロボロの剣をもった集団がやってきたという報告を受けた。
どこかで戦争でもあって逃げ延びてきたのだろうか?
一瞬誰かが襲ってきたのかと思ったが、さすがにあんな装備で襲ってくるわけがないもんな。
「とりあえず様子を見に行くか。シャロも一緒に来てくれるか?」
「えっと、良いのですか? 私がいても特に何も出来ませんけど……」
「あぁ、もしかしたらお前の知り合いかもしれないだろう? それに俺一人じゃ集団は抑えきれないかもしれない」
「わ、私にも無理ですよー!?」
驚き声を上げるシャロだが、それを気にすることなく俺は城下町へと急いでいった。
◇
「魔王を出せ! 俺が倒してやる!」
「いや、俺が相手だ!!」
「お前なんかに渡すか! 魔王を倒すのは俺だ!」
「なにを! それなら誰が魔王の相手をするのか勝負だ!」
「望むところだ! 相手をしてやる!」
城下町に行くとなぜか乱闘騒ぎが起こっていた。
勝手に数が減ってくれるのはいいが、回りの建物に被害が出ている。
……この国の建物の資産価値を下げるな!
「おいっ、人の国に来て何をしているんだ!」
乱闘を止めに入ると暴れていた男達が一斉に俺のことを見てくる。
「魔王か?」
その問いかけにあきれながら答える。
「どこをどう見たら俺が魔王に見えるんだ?」
「そうだな……。一般人は引いてろ! ここはこれから勇者である俺と魔王の決戦の場になる」
「お前じゃないだろ! この地はまもなく魔王との戦いで焦土となる。さっさと逃げるといい」
「……人の国を勝手に燃やそうとするな!」
おかしなことを言った男に向けてあきれ顔を見せる。
「……ここはお前の国? なら魔王は……?」
「あのな……、魔王がいるのは魔族国だろう? ここはユールゲン王国だ! 普通に考えてここに魔王が――」
「おい、アルフ。農具を新調してきたぞ! ふふふっ、これで作物の収穫量も上がるな」
ニヤけた表情をしながらジャグラがやってくる。
背中にある荷車にはたくさんのクワや見たことのない道具がたくさん乗せられていた。
あれで金が足りるのか……?
少し不安になる俺をよそに、回りの男達の視線はジャグラに向いていた。
「んっ、どうかしたのか?」
「……魔王だ!」
「ま、魔王が現れたぞ。くらえっ!!」
ジャグラに向けて問答無用で斬りかかっていく男達。
ただ、それをジャグラはとっさにクワで受け止め、そのまま武器を吹き飛ばしていた。
「なんでこいつらはいきなり襲ってきたんだ?」
ジャグラが不思議そうに男達にクワを向けながら聞いてくる。
「勝手に俺の国にやってきて突然暴れ出したんだ。当然だが町の被害の代金はきっちり払ってもらうからな!」
「ちょ、ちょっと待て! この町は元々ボロボロ……」
「それがどうしたんだ? 暴れて壊したのはお前達だろう?」
「ぐっ……、く、くそ……、俺が勇者になる機会が――」
男達は悔しそうに唇を噛みしめていた。
「元々勇者は魔王を倒した奴に与えられる称号だろう? 一体誰がそんなことを――」
「えっと、この先にある領地の貴族だ――」
あいつか……。
民から搾取していただけでなく、この国から金や使えるものを奪っていった貴族。
「なるほどな……。どうせ奴のことだ。本当の魔王を倒したとしても、何かにつけて認めないだろうな。第一、本当に魔王を倒してもらおうと思ってたら、その装備を見て何とも思わないわけないだろう?」
どう見ても魔王討伐をするような装備ではない。
むしろその辺にいる弱い魔物でも危険なほどだ。
「こ、これは貴族が俺たちに準備した――」
「つまりお前達は使い捨てだったんだ。奴にとってはな」
「うっ……」
男達が青白い顔を見せてうつむいていた。
そこで俺は人手が足りてないことを思い出す。
こいつらはちょうどいい労働力じゃないのか?
今なら軽い餌を与えた程度で寝返ってくれるだろう。
「それならば、この国に住まないか? もちろんここの国民になるなら壊した建物については何も問わないぞ?」
「ほ、本当か? だって実際に壊してしまった部分も――」
「実際にこの国に住んでいるのなら、建物にうっかり傷がはいってしまうこともあるからな。何も変なことではないだろう?」
俺のその言葉に男達は次から次へと膝をついて頭を垂れていた。
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