第5話 魔王との交渉
魔族が帰った次の日、思いのほか疲れが出ていたので一日休みを取ることにした。
やはり、下手に疲れていては本調子で働くことが出来ないからな。
自室で横になりながら、その辺にあった書物を眺める。
「アルフ様、よろしいでしょうか?」
そんなときにシャロが扉を叩いてくる。
「どうかしたのか?」
扉を開けてシャロを入れる。
彼女は掃除道具をしっかり持っていて、それだけでこの部屋に何をしに来たのかがわかった。
「あっ、いえ、部屋の掃除をさせてもらおうかなと思いまして――」
「まだ綺麗だと思うんだが?」
「そう見えても部屋の隅とかにはほこりがたまってるんですよ。気持ちよく休むためにもお部屋は綺麗にしておく必要があると思うんですよね」
「……それならもっと他に汚れてる部屋があると思うんだが――」
「あっ、そちらもするつもりですよ? せっかくのお休みですから」
こいつは休みだからって掃除をするのか……。
仕事中も暇を見つけては掃除をしているし……。
いや、むしろ無理をしてここにいれるように俺に媚びをうっているのか……。
それだけ魔族国には戻りたくないということなのだろうな。
でも、ここまで働いていてはいざというときに本調子で働けないだろう。
……無理をしてでも休ませる必要があるな。
「わかった。ただ、掃除をするのはこの部屋だけだ」
「……どうしてですか?」
「少し出かける。シャロも付き添え!」
「はいっ、かしこまりました!」
シャロが部屋の掃除を終えるのを待って、俺たちは城下町へと出かける。
◇
町は相変わらずほとんど人通りもなく閑散とした雰囲気を出していた。
「はやくこの町も人であふれかえる場所にしたいな」
「あっ、えっと……、そうなったら私の居場所もなくなりそうな……」
シャロがもの寂しそうな表情を見せる。
「はぁ? 何を言ってるんだ? シャロは俺の従者だろう? 町に人が増えたとしてもそれは変わらないぞ?」
「えっと、いいのですか? 私、色んなトラブルを抱えていますし」
「それが気になるなら、この国のために稼いでくれたら良い。それ以上に必要なことがあるか?」
「あっ……、はい! 私、頑張ります!!」
シャロがグッと両手を握りしめてやる気を見せてくれる。
「さて、それじゃあせっかくここまできたのだから商会の方にも顔を出しておくか」
「はいっ!」
◇
「いらっしゃいませ……って、アルフ様ですか。今日も何かご用ですか?」
「いや、近くを通りがかったので顔を出しただけだ。繁盛してるか?」
「まぁ、見ての通りです……」
人一人として商会には入っていない。
やはり人を集めるのは急務か。
「まぁ、税が安いおかげでここを流通の拠点とさせてもらってますよ。これが中々の収入になる予定ですよ」
「ほう……、それはいい知らせだ。お前が稼いでくれたら他の商人も来やすくなるからな」
「そうですね。あとはこの国に何か名産でも有れば、更に稼げそうなんですけど……」
「……少し考えておこう」
金を稼げるのなら十分考える価値がある。
「名産……ですか。例えば魔族国のものをここで売る……とかはどうでしょうか?」
シャロが少し考えた上で言ってくる。
「それができるなら一番いいな。ただ、そこは魔王との直接対決の後だな」
「私のために本当にお父様は来るのでしょうか? 私が迫害されてた時も全く気付いてなかったお父様なんですよ!」
「あの様子だと必ずくる。だからこそ今のうちに休んで英気を養っておかないとな」
「はい、わかりました」
どこか腑に落ちない様子のシャロと一緒に、一日のんびり過ごした。
◇
翌日、まだ日も昇りきらないうちから城の前で騒いでいる奴がいる。
「なんだ……、こんな朝早くから……」
身なりだけ整えて、応接室へと向かっていくと、そこには以前来た魔族の男ともう一人、更に一回り体の大きな魔族が腕を組み、威圧を放ちながら座っていた。
あの魔族の男が側で立っているところを見ると、この座ってる男が魔王か。
たしかに魔王と言えるだけの存在感だ。
シャロとは全く似ていない。
「これでも力を抑えてるんだ。動けるであろう? 早く席に着くといい」
目を閉じていた魔王がその場で固まっている俺に対して声をかける。
「すまないな。こんなにすぐにくるとは思わなかったんだ」
席につき、内心ではびくつきながらも笑って見せる。
交渉ごとは弱みを見せたらつけ込まれるから、太々しく笑って見せるに限る。
「ほう、なるほどな……」
俺の姿を見て、魔王は感心した声を上げる。
するとその瞬間に部屋のドアが開く。
「あ、アルフ様、遅れて申し訳ありません」
息を切らして、シャロが部屋に入ってくる。
そんな彼女にだけ聞こえるように小声で告げる。
「いや、気にするな。突然の来訪だからな」
「……シャロか」
魔王がボソッと呟く。
その表情が一瞬緩んだのを俺は見逃さなかった。
なるほどな。
魔王自身は娘を溺愛してるけど、王という立場から忙しくて構えない間に、他の魔族に迫害された……ということか。
「それでここにきた理由はやはりシャロのことか?」
「あぁ、我が娘であるシャロは人間の国にいてはどのような目に合うかわからない。だから我が国に連れ戻しにきた。今までいじめられていたから怖いかも知れんが、もうお前をいじめていた奴はいない。だから安心して戻ってくるといい」
魔王は魔王で色々と手を打っていたようだ。
「だが、お前が見てる間は大丈夫かもしれないが、また目を離したらその瞬間に迫害されるんじゃないのか?」
「ぐっ……。そ、それなら我が常に見ている……」
「そんなことできないだろう? だからこそシャロもこの国の……、俺の従者が良いと言ってるんだろう?」
「し、しかし、それだとシャロのご飯が……。い、いや、なんでもない――」
あぁ、そういうことか。
俺はシャロを横目で見ると彼女は不思議そうな表情をしていた。
「別に俺としては魔族との国交を断るつもりはないぞ? いつでも来てくれて良いんだぞ?」
「えっ!? こ、ここは人間の国じゃないのか? 我が出歩いては問答無用で切りかかってくるような奴がいるだろう?」
「そんなものは二の次だ。不幸になる人間が少ないのに外交を拒む理由がどこにある?」
それに魔族国と国交が生まれたら、そっちの特産を色んなところに売ることができる。
今以上に稼げるだろう。
俺の提案に魔王は少し考え、そして頷いていた。
「わかった。そのかわり我も堂々と町を歩かせてもらうぞ?」
「もちろんだ。むしろくることを前もって言ってくれればそれなりの準備ができると思うぞ」
「よし、その提案受けさせてもらおう」
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