第4話 魔族との対面
城に着くと応接間へと向かう。
弱小とはいえ流石に相手が国家だと、いきなり攻めてくることはないと予想していたが、その通りになってよかった。
「待たせてしまってすまない」
応接間に入ると早速魔族に声をかける。
燃えるような真っ赤な髪と漆黒の角、そして、かなりガタイの良い男性で、体から発せられるプレッシャーはかなりのものだった。
「……魔王様からシャロ様を連れ戻せとの命令だ。余計な話はいい、シャロ様を引き渡せ!」
魔族は俺には視線すら送らずに、まっすぐシャロの方を睨んでいた。
当のシャロは体を震わせ、青白い表情を浮かべていた。
それを見て俺はため息を吐く。
「はぁ……、なんでお前の命令を聞かないといけないんだ?」
「えっ!?」
驚きの声を上げるシャロ。
魔族の男もそんな返答が来るとは思っていなかったようで、一瞬固まっていた。
「なんて言った? まさか聞き違いではないよな?」
「だから、どうしてお前の言うことを聞く必要があるんだ? シャロはこの国に住みたいと言ってきて、俺が承諾した。それが全てだ」
「まさか貴様、魔王様を敵に回すつもりなのか!?」
「俺は別に魔王と敵対するつもりはない。ただ、シャロが魔族国を出てここに住みたいと言ったから住まわせるだけだ」
「くっ……、そ、それならシャロ様が戻りたいと言ったら連れて行って良いのだな」
「シャロが戻りたいというのならな」
ただ、シャロが行きたいと言うとは思えないけれどな。
彼女の表情を見る限りだとかなり怯えているし、この領地にいるときのシャロは楽しそうだった。
「シャロ様、今なら魔王様も怒らないでしょう。だから帰りますよ!」
魔族がシャロの手をつかもうとするが、彼女はさっとその手を引く。
「あ、あの……、私は……、戻りたくない……」
震える声でなんとか言葉を発する。
それを聞いた後、俺は彼女の頭を軽く叩くと、魔族に視線を向ける。
「ふぅ……、やはり交渉決裂だな。シャロは戻りたくないようだ」
「ぐっ……、かくなる上はシャロ様以外の人間を殺してでも――」
「良いのか? お前一人の一存でこの国と戦争を起こす気か?」
「戦争にすらならないだろう。この国程度だと俺一人で十分だ」
魔族の男が炎の球を生み出す。
「いや、なるさ。まさかこの城に俺とシャロしかいないと思ってるのか? この部屋で何かトラブルがあればすぐにでも兵が駆けつけることになっている」
「くっ……」
魔族はすっと炎を消して大人しく椅子に座る。
「わかった。この一件は魔王様に相談して判断してもらう」
「あぁ、何だったら次は魔王が交渉に来ると良い。そうすればシャロも良い返事をくれるかもしれないぞ」
「なにをヌケヌケと……。今ここでお前を殺さないのはシャロ様にも被害が出てしまうかもしれないからだぞ。お前なんて一瞬で殺せることを忘れるな」
「――気が向いたら覚えておく」
「ぐっ、やっぱりここで殺す……。い、いや、とにかく魔王様にすぐにでも判断してもらう故に今日はこれで失礼する!」
顔を真っ赤にした魔族は怒りをあらわにしながら立ち上がる。そして――。
バタンっ!!
と、激しい音を鳴らしながら部屋から出て行く。
◇
「ふぅ……、なんとか切り抜けたな……」
俺は深々と椅子に腰掛けて思わずため息を吐く。
今更ながら全身に冷や汗が流れ、体が震えだしていた。
「あ、アルフ様? 大丈夫ですか?」
シャロが心配そうに俺の顔をのぞき込んでくる。
「いや、大丈夫だ。ただ、さすがに死ぬかと思ったぞ。俺自身に戦う力はないからな」
「そ、それなのに
「当然だろう? 他ならぬシャロのためなんだからな」
せっかく手に入れた金になりそうな国民なんだ。そう簡単に手放してたまるか!!
なんとか震える体を押さえようとする。
するとシャロが俺の手を包み込むように自分の手を合わせてくる。
「ありがとうございます。このご恩は必ずお返しします――」
「あぁ、期待しないで待ってるよ――」
軽く手を上げてシャロに答える。
そして、いずれ来るであろう魔王の対策を考え始めていた。
「アルフ様、本当にありがとうございます……」
頬を染めながら小さな声でもう一度お礼を言ってくるシャロ。
「そういえば魔王ってどんな奴なんだ? 話は通じる相手だよな?」
念のためにシャロに確認をしておく。
「そうですね……。言葉がわかるかどうかの通じる……、なら確かに通じますよ。でも、自分のためにならないことは一切しない、力で何事も解決しようとする人です。ただ、魔王になってからは少し物事を考えるようになりましたけど――」
「そこまでわかれば大丈夫だ。とりあえずなんとかなりそうだ」
一番怖かったのは魔王が問答無用で全てを破壊し尽くす奴だったら、この城を捨てて別の拠点を作るしかなかった。
そうなるとかなりの出費になってしまうのでそれだけは避けたかった。
でも、言葉が通じるなら全然話になりそうだ。
むしろ相手も一国家の長だ。
うまく話を通すことが出来ればこの国の収益にもつながるだろう。
特に向こうはシャロに傷を負わせることなく連れ帰りたいようなので、彼女さえ俺の側に控えてくれていたら優位に話すことができるだろうからな。
◇■◇■◇■
「何っ!? シャロにこの国へ戻ってくることを断られただと!?」
魔族の男の報告を聞き、魔王は驚きの声を上げていた。
「はい、おそらくシャロ様はあの男のいいなりに――」
「男……だと!? ま、まさかシャロに恋人が!? ぐっ……、いくら何でもシャロにはまだ早すぎる!」
魔王が憤慨して近場にあるものを壊そうとしてくる。
それを魔族の男が慌てて止める。
「いえ、そういう意味ではなくてですね……。どうやらシャロ様はユールゲン王国に住むことを決めたようなんですよ。それで文句があるなら会いに来い、とユールゲン王国の王子が言っていました。戦争を仕掛けますか?」
「馬鹿者が! 戦争はただ戦えば良いというものではないんだぞ! ただでさえ金や食料が大量に必要で、その上で被害が出るかもしれん。明確な敵ならまだしも、今回のような場合においそれと出来るか! とにかく次は儂が出向いてやる」
「わかりました。ではお供させていただきます」
「それじゃあ馬の準備を頼んだぞ」
すぐに出かける準備をした魔王はたまった仕事もそのままに城を飛び出していった。
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