✺ scene 03

  ◇  ◇  ◇



 ――やばい。


 こんなつもりじゃなかったのに。



「浅黄くんが寝るまでおしゃべりしてあげる♡」



 俺の部屋。ベッドの上。


 かろうじて完全に寝転がってはないけど、ベッドボードにもたれて(もたれさせられたんだよ……!)身じろぎひとつできない俺と、ぴったりと寄り添う千歳。



「もう眠くなったからっ! 帰れよ……っ!」



 家族に聞こえないように小声で怒鳴った。

 千歳は引きとめた瞬間から急にゴキゲンになって、「叩き起こしちゃってごめんね♡」とか言ってウチにあがりこんでこのザマ。おかげで聞きたかったことも聞けずにいる。



「おめめパッチリじゃーん。頭なでてあげるー」


「ヤメロ、まじで」



 こんなの絶対やばいって。



「ぎゅってしていー?」


「ま、やだ、ほんとに……っ!」



 もう正直めちゃくちゃいい匂いするし、気ぃ抜いたらやばい、から。



「だめなのー?」



 くすっと笑いながら腕をまわしてくる千歳。


 あ、くそ。

 目ぇつぶっててもいろいろ分かる。



「~~~~~っもう、だめだってば」



 いっしょにいてやりたかっただけなのに、こんな。体目当てみたいに思われたら――……



「……ッこれ以上、さわんなよッ!!!」



 ぐっ、とやみくもに千歳を壁のほうに押しのけると、部屋は一気にしんとして自分の息の音だけになった。


 息を落ち着けて目を開けると、千歳が泣きそうな顔でこっちを見ている。


 げ、泣き落としかよ……。



「キライって言わないでぇ……あとブスとかシネとか」


「はぁぁぁ!? 言ってねーだろそんなこと!!」


「クソ女もやだーーーー」


「言ったことねーだろ! さわんのやめろって言っただけだろ! こっちは真面目に話聞こうとしてんのに、なんか、こう、さわってくるから……!」


「ほぼ浅黄くんが言ったんだよー! ズキズキして寝れないー!」


「どーゆー……ていうかやっぱ俺じゃん。そんで、その被害妄想で凹んでたのかよ!?」


「夢で会った浅黄くんがデレデレでめっちゃえっちだと思って、いちゃいちゃしようとしたら、めっちゃキレてきて死ねって言ってきたのー!」


「あぁ!? なにがなんだって!? どーなってんだよww」



 もう力抜けて笑うしかない。



「夢の中で会いに行ったのにー」


「もー勘弁してくれよww おまえの夢の中まで責任とれねーよ」


「ブスでクソ女だって!! 言ったの!!」


「なにww 俺、お前の中でそんなヤな奴なのww」


「全部が逆になる夢だったんだよー」


「鏡の国的な?」


「そう」


「じゃーすげーイイ奴ってことか、よかったよかったw」


「ちがうよー。わたしのことこの世で一番憎んでるんだよきっとー。わたしとは絶縁してたのに会いに行ったからブチギレだったのー」


「…………違うだろ」


「ちがくないよー。わたしは浅黄くんのほんとのことよく知ってるからね……」


「…………。おまえもう寝そうだろ、しゃべり方」


「浅黄くんもよく知ってるもんねー、わたしのこと」


「……」


「ねー、もうさわんないから手だけ貸して、ね」


「さわってるし……」


「うん……」



 千歳は俺の手を握ったままウトウトしだした。



「帰れよ……」



 返事はどうせないから、はーっとため息をついた。

 1ミリも俺に嫌われてると思ってないってことかよ、自惚れすぎ。


 空いてるほうの手で千歳にタオルケットをかけて、自分も体を滑らせてベッドに横になる。

 となりの規則正しい寝息を聞きながら、ぼんやり天井を眺める。

 ころん、と千歳が寝返りをうって、きゅ、と身を寄せてきた。


 ――……結局さわってるっての!


 あー、くそ。

 朝ぜったいコイツより早く起きないと、終わる。



+ the End? +


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