✺ scene 02
◇ ◇ ◇
「明日でいいだろぉ……」
となりの家の玄関につくなり、そっとドアから顔をのぞかせた千歳をみると、呆れた声が出た。
「……うん」
なんとなく察してはいたけどいつもの勢いはなくて、のろのろとポーチに出てきた千歳はそのまま止まらずに、ぽす、と抱きついてきた。
「わ、なに」
抗議しつつも、こういうとき聞こえるはずの「えへ」だか「ふへ」みたいな変な声もしないし、様子見でされるがままにしておく。
「……暑いんだけど」
尺稼ぎにぼやいても千歳は黙ったまま。規則正しく動いている背中をみると、泣いてはないみたいだけど。
だんだん沈黙にたえられなくなってきて大げさに一息ついて口を開く。
「……具合悪い?」
あ、声間違えた。なんかこれだと詰めてるみたいだ。もうちょっとやさしく――……脳内反省会がはじまったのをさえぎるように、俺の肩に顔をうずめたままの千歳が首をふる。ちょっとほっとして仕切りなおす。
「寝れねーの?」
「……起きちゃった」
「そう」
また黙りこくる千歳。いい加減くっついてるところが熱くなってきてそろそろ限界がきそうだ。でも俺から離れたらまずそうな気がするし、一応心配ではある。なにげない感じを意識して声をかける。
「……なんかあったの?」
千歳はちょっと止まってから小刻みにうなずいた。
「サークル? バイト?」
ゆるく首をふる。どっちも違うみたいだ。
「親とか?」
あ、別に聞いてほしいやつじゃなかったかな。
「いいや、言いたくないなら」
――……あ。
「……俺?」
「………………チガウ」
俺だーーー!
どれのことだ!? 心当たりある、けど!!
先週誘われたデートとやらを断ったから?……でもホントに用事あったし。一昨日ひっぺがすときの力強かったとか? 夏休みだから毎日会えてるわけじゃないし、最近サークル帰りいっしょに帰ってないし……そもそも告白テキトーに流してるのがダメ? もしかして髪変わったの気づいてないとか?……いや、変わってないよな。やばいヘンな汗でてきた……ていうかなんで元凶に泣きつくんだよ、意味わかんね。
すると千歳がのそりと顔をあげた。さっきみて記憶してたよりやつれた顔でちょっとたじろいでしまう。
「ありがとー。眠くなったから部屋もどるね、おやすみ」
にこ、と形だけ笑って離れていく千歳の体。
――いや、絶対うそだろ……!
戸惑ってるあいだに千歳は家にひっこもうとしてるし、ドアが閉ま……
「ちとせ」
ガッ、とノブを引っ張る。千歳が振りかえる。
――なんて言えばいい?
「……ッ人を叩き起こしといて『ハイおやすみ』は、ねーだろ……」
千歳の目がわずかに開く。
のどがひっついたみたいにうまく言葉が出てこない。
「……だ、から」
だから、なんて言う?
「……もう少し、
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