✺ scene 02

  ◇  ◇  ◇



 夢の中だからか、自然とどこに向かえばいいかがわかって、足の感覚もないけど進んでいく。体が軽い。

 毒々しい色とマーブル模様の森?みたいなのを抜けて、現代美術みたいなパースが狂った建物が天井からたくさん生えている街に出た。


 すい、と目が吸い寄せられた先で、よく知っている背中が揺れている。


 浅黄くんだ……! 寝てるときまで会えるなんてうれしい……! 黒い服着てる! 現実の浅黄くん、服は白系が好きだもんね! さかさまだ! わたしにめろめろモード確定!


 にやけそうなのをおさえて、どうやって声かけようかな、とそわそわしながら前髪を整える。わたし、今パジャマだからちょっと残念。かわいい服で登場したかったな。いや無防備なほうがむしろイイっていうし……。なんでもいっか、こっちの浅黄くんはわたしにベタ惚れだからネ!!!!



「佐々木さん、やめよう。もう帰ろう」



 遅れてきた小野寺くんがわたしの肩をつかんだ。



「なんでじゃまするの~。さかさまならわたしの味方してよー」


「……してる、けど」



 なんだか言いにくそうにしている小野寺くん。



「……! そうだよね……! いちゃいちゃされたら気まずいよね! 小野寺くんは先に帰っていいヨ! ここまでありがとう相棒!」


「ちげーわ」



 強めにツッコミをいれてから、小野寺くんは困ったような顔をして言った。



「佐々木さん、さかさまの意味わかってないでしょ」


「え」



 ……どゆこと? だって浅黄くんは、わたしにツンツンでちっともなびかなくて意地悪言うし、らぶっぽいことにすぐ照れて逃げるし……。


 ――……の逆。


 めろめろっていうか、ちょっとえっちな展開もアリってこと!? わ、浅黄くんが強引に迫ってきたりとか!? こんなところで!? も~だめだってば浅黄くんったら……ぜんっぜんイイけどね!!!!



「完全に理解した! わたしなら大丈夫! 100%合意の上だから!」


「だめだ、バカすぎる……」



 ぼやいてる小野寺くんをほっぽって、少し離れて行ってしまった浅黄くんを追いかけて、背中にダイブする。 



「浅黄くん! 会いにきたよ!」



 抱きついた肩がビクッと揺れる。振り向いた浅黄くんと目が合った、瞬間。



「さわんなブス」



 ――……嫌悪感しかない声といっしょに、バシッと腕を払われた。


 見たことない態度に固まっていると「チッ」と舌打ちが聞こえる。



「言ったよな。お前みたいなクソ女、大っ嫌いなんだよ。二度と顔見せんな」



 ドン、と肩を押されバランスを崩すわたし。あ、転ぶな、と思ったけど時間がゆっくりに感じられた。



「俺の知らないところでさっさと死ね」



 去っていく背中からはっきりと聞こえたのと同時に、べしゃっと青空にしりもちついた。



「……」



 のどの奥がつまったように息ができない。



「だから言ったのに……」



 いつの間にか隣に立っている小野寺くんがつぶやくように言った。



「……ま、ある意味止める必要ないんだけど。ぱっと見は可哀そうだからさ」



 うん。考えればわかる。傷つかなくていい。


 ――……でも、夢の中でも浅黄くんは浅黄くんだし、ほぼ本人。


 息ができない。くるしい。はやく空気を吸わないと……はやく――……


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