+ 千歳と熱帯夜 +
✺ scene 01
◇ ◇ ◇
「小野寺くん……なにその格好」
目の前にたつ大学のクラスメイト小野寺くんは、頭からつま先まで原色と水玉のトンチキな格好をしている。小野寺くんはわたしのだいすきな幼馴染の浅黄くんと話してるところをよく見るけど、わたしとはそんなに絡みはない。それでも今のファッションが普段の小野寺くんとかけ離れていることは十分わかる。
「ようこそ、っていうかおじゃまします、かな。ここは佐々木さんの夢の中だよ」
やけに説明口調でしゃべる小野寺くんに「へー」とまぬけな声をだしてしまった。
「夢……でもなんでそんなヘンな服着てるの……?」
「佐々木さんが着せたんだよ」
「わたし?」
「佐々木さんが俺のこと深層心理で恨んでるからこんな格好になっちゃうの」
「え、恨んでなんて……」
……ない、とはいえないかも……。
浅黄くんを
「あと夢のコンセプトにもよるかな。まわりみてごらん」
そう言った小野寺くんにうながされて、ふと景色をみる。
「……わ、すごい。さかさまだ」
今気づいたけど、私たちは空の上にさかさまに立っていた。いつもの地面が天井みたいにみえる。
「今日の夢は『さかさまの国』だよ。いろんなことが鏡になってるんだ」
「へーよくあるやつだね。夢おもしろ~」
「なんでもさかさま、ってことは佐々木さん俺のことけっこーオシャレだと思ってたのかな。わりとうれしいかも」
「ふーん」
まあ、そうかも。服はね。ていうか中身をよく知らないから解像度が見た目に寄っちゃうのかも。言えないけど。
「で、あんま仲良くないからバディに選ばれたんだろうね」
「あわ、ご、ごめんなさい……一応」
たぶん小野寺くんも何となくわたしのことが苦手だから(そうわたしが思ってるから?)、いつもより友好的な雰囲気のふわふわした会話におどおどしてしまう。ま、夢だしゆるくてもいっか。
「こんなにしゃべれる夢の中だったら浅黄くんに会いたいなー」
「あ、好きな人には会わないほうが……」
小野寺くんが何か言っていたけど、ほわっと妄想が広がってぜんぜん気にならない。
あの浅黄くんのことだから『さかさまの国』だったら……きっと「ちとせ♡」とか言ってでれでれになってくるでしょ! もしかしたら浅黄くんからハグしてくれるかも……? いっぱい「すき」って言ってくれるかも……!
現実逃避とか言われそうだけど別にいいじゃんね。夢の中でも浅黄くんは浅黄くんだもん。わたしの解像度をもってすればほぼ本人ってことで! 夏休み入ってからあんまりいっしょにいられてないし、充電イベントだ!
「さ、行くよ小野寺くん!」
「……ちょ」
ぐいぐい小野寺くんの腕をひっぱって空の絨毯を駆けだした。
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