interlude
−幕間−
◇ ◇ ◇
「浅黄くん何味にしたの?」
「桃」
わたしがソーダのかき氷を持って店の外で待っていると、遅れて注文した浅黄くんが白っぽいかき氷を手に、自動ドアのむこうからやってきた。
「ひとくちちょーだい」
ぱか、と口をあけて待つと、浅黄くんは素直に「ん」と桃の欠片がのったスプーンをこっちにむける。
たぶん無意識なんだろうなーとは思うけど、からかったりしてあーんしてくれなくなったらイヤだから、わたしも何気ない感じでパクっといく。
今さら同じスプーン使うとか、あーんとかじゃわたしも浅黄くんも意識しないけど、フツーにみればカップルっぽいことなのに、気づいてない浅黄くんはぬけててかわいい。わたしのことすきじゃないって言ってるくせに。
外堀うめられるし、牽制できるし……わたしにとっては得しかないから黙っておく。
「ソーダあげる」
「ん」
お返しに水色のかき氷を浅黄くんの口に運ぶ。すんなり食べてくれる。
「パチパチす、る」
つめたいからか、もごもごしながら浅黄くんが言った。
「ねー。ホッピングシャワーみたいなの入ってる」
わたしも自分の口にソーダを放りこむとキャンディがはじけた。フルーツポンチの寒天みたいなのも入ってて、それをすくってまた浅黄くんにさしだす。
「具もあげる」
「いーの?」
「うん」
浅黄くんが赤い寒天をぱく、と口にした瞬間、わたしは思わずにやけてしまう。
「ハート型だったからあげた♡」
――…もぐもぐしたまま睨まれた。
でも、これくらいなら大丈夫。ぜんぜん怒ってない。
そっぽむいて桃味をかきこむ浅黄くんが手首にぶらさげているコンビニ袋がゆれて、目がいった。
……ノンシュガーのモンスターが2本。
「エナドリ……早死にするよ〜」
「……別にイッキするわけじゃないし、ただの買いだめ」
「毎日のんじゃだめだよー」
「お前こそかーちゃんみたい」
「もー。ハタチなったら止めないけど、お酒とかたばことか心配〜。浅黄くんぜったい嗜好品によわいでしょ」
「なんじゃそりゃ」
「ちゃんと摂生して長生きしてよー。フツーに考えたらタメなんだから、浅黄くんのほうがはやく死んじゃうんだからね」
「そんなになる前にお前とは疎遠になる予定だから」
「むりだね〜わかってるくせにー」
かるく腕をまわすとベリッとひっぺがされた。けど、気にしないで抱きつく。
「ほんとに気をつけてね。ひとりで置いてかれるのやだからね。浅黄くんがいないのはだめだから。絶対わたしが先。死ぬときはそばにいてね。手とかにぎって」
浅黄くんは何も言わないし、スプーンもとまっている。しん、としたままで店内の喧騒がかすかに聞こえる。そのまま、しばらくするとカップを伝った水滴がわたしの足に落ちた。
さすがに、あれっと思って浅黄くんの顔をちらっと見上げると――……こわばった顔で一点を見つめていた。
あ、やばい。
「あ、浅黄くん……」
軽く肩をゆする。
「……大丈夫?」
一瞬目が合うと、す、と浅黄くんの視線が下に泳いだ。わたしは反射的に首に手を持っていってしまった。そこを見られるのがわかったから。
そのせいでわたしが浅黄くんの考えを読んだことも、浅黄くんがそれに気づいたこともはっきりしてしまった。
ふたりとも何も言わないけど
「……ごめんね」
あやまるのが正解とは言えないけど、つい口にしてしまう。ぜんぶ悪手。
浅黄くんはうなだれて首をふった。別にいい、ってことだと思う。
気まずさをごまかすように浅黄くんはカップの中をスプーンでくるくる回して、残りの氷をのどに流しこんだ。そろそろ歩きだす雰囲気を感じて、わたしも同じように平らげる。
「……帰ろ」
つぶやくように言った浅黄くんが、私の手からカップをとりあげてごみ箱のほうに向かった。その背中を見ながら、わたしは冷えた指をもう一度首にやる。少し汗ばんだ肌をなでると
くるっときびすを返した浅黄くんにバレないように、わたしは手をおろした。
「ごみ、ありがと」
空気をごまかそうと明るく言って、浅黄くんの手に飛びつく。
「はいはい」
いつもの調子でイヤそうに手をはらわれた。でも、わたしには浅黄くんがムリをしてるのがわかった。
「手ぇつめた〜い、あっためて〜」
「やだ。つーか俺も食ったんだから冷たいの同じだろ」
「じゃーあっためてあげる」
「いらない! 言うと思ったよ……」
お互い気づかないフリでいつも通りの雰囲気をつくりあげながら、夜道を家にむかって歩いていく。
――……気をつけないと。浅黄くんはまだ
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