+ 金星と浅黄くん +

✫ scene 01

  ◇  ◇  ◇



「ミニストップいくから、浅黄くん付いてきて」



 土曜日の夜。自分の部屋のベランダに出たところで、向かいのベランダに現れた千歳に声をかけられた。たぶん窓をあける音を聞きつけて顔をだすんだろう。となりの家に住む幼なじみのコイツとは、毎回じゃないけどたまにこうしてしゃべったりする。



「俺、今から風呂入るとこなんだけど」



 めんどくさそうな顔をつくって返すけど、千歳は気にしていない様子で、



「ちょうどいいじゃん夜のお散歩。ちょっと運動してお風呂はいったらよく寝れそうじゃない?」



こじつけみたいなことを言ってきた。



「調子いいことばっか言うなよ。お前風呂入ったんだろ、とっとと寝ろ」



 もう寝る前、といったかんじでラフな格好の千歳をみてシッシと追いはらう。



「え~かき氷食べようよ~今日暑かったしさ~今涼しいしさ~」


「もーうるさい、はやく家入れよ」


「おねがい~浅黄くんも好きでしょかき氷」



 たしかにミニストップのかき氷は惹かれるし、最近急に暑くなったから夜風にあたるのも悪い気はしないけど。休みの日までコイツのお願いを聞いてやるのは癪な気がする。



「わたしが暴漢におそわれてもいいのー?」



 返事をしぶっている俺にセコイ手で追い打ちをかけてきた。



「じゃー昼にすればいいだろ、ひとりで。おやすみー」


「待ってよーもう。じゃー今から行っちゃうから」



 引きあげようとする俺より早く、千歳がカーテンの向こうに消えた。



「おい!」


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