☂ scene 08
◇ ◇ ◇
千歳から解放されて1週間たった。
今日は、大学近くの区民プールでバレーしよう、とサークルの先輩たちに誘われていて、午後の授業がおわって目的の場所にむかおうと本館をでると、雨が降っていた。
またか学べよ、と思うけど、朝降ってなきゃ傘なんて持ってこないし、置き傘たまってるところはキャンパスの裏でめんどいし、どうせ水にはいるんだし濡れてもいいか、とか考える。
雨の日は、最近のことがいろいろ思い浮かんであんまり好きじゃない。
なんとなく傘の彼女とは連絡をとる気になれなくて、家の玄関に置きっぱなしになっている。完全に借りパクでまずいとは思う。
それに、千歳。1週間もまともに話さないのなんて人生ではじめてかもしれない。今日のサークルに来るかわからないけど、来たとしてもなんでもない同期のひとりとしていられそうな気がする。やっと。
でも、今日少しだけ気になることがあった。講義室でたまたまばっちり目があってしまったとき、さっと目をそらされた……気がする。やっぱり最後がけんかみたいになったのはまずかった?
もんもんと考えしまい、本館の屋根のしたにまだつったっていた。
ふと、前をみると見覚えのありすぎる背中が正門を出ていくのがみえた。
――……千歳。
でかいビニ傘に誰かとふたりではいって歩いている。たぶんだけど、サークルの先輩かな。2年の男の。
「傘忘れちゃって。いれてくださ~い」とかヘラヘラしてる千歳の顔がかんたんに思い浮かぶ。それか「先輩、傘いれてあげますよ」だ。
そんなにくっつかなくてもいいような感じで肩をよせあって視界から消えた千歳と先輩が、頭のなかで何回も再生される。ゆっくり。
俺みたいなやつのことやさしいとかいうくらい頭がゆるい千歳だったら、ほかのやつにちょっと親切にされただけで、ころっと気が変わるんじゃないか?
先輩は傘のなかでなんて思う? 千歳にくっつかれて、たぶんまじめに聞かなくてもいいような話を千歳がずっとしていて、たまに目があったりとかして。
きゅ、と喉の奥が苦しくなった。
それできっと、ほかの女子とちがって落ちついててやさしいにおいがする。
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