☂ scene 06
◇ ◇ ◇
「浅黄くん合コンいったの!?」
「行った」
本館の階段のしたで待ちかまえていた千歳につかまった。
たぶん小野寺から話を聞き出したんだろう。行くまえにバレると絶対じゃまされただろうけど、行ったらこっちのもん。事実はどうであれ、千歳離れをすすめているのを本人にも知っておいてもらわねーと。
「浮気だぁ……っ!」
「浮気じゃねーだろ、そもそも付き合ってねーし!」
「なんでいくの~合コン~ひど~い」
「ひどくない! 彼女ほしいっつっただろ! なんでこんなこと大声で言わなきゃいけねんだよ……」
「わたしとつきあってよぉ」
「お前以外がいいの!」
「いじわる~! もうきらい!」
「やった!」
「やだぁ~すきぃ~」
「ッやっめろ、ひっつくな! シャツのびるって!」
ぎゅ、と千歳がシャツをくっちゃくちゃににぎりしめて泣きついてくる。けど、次の瞬間、俺のリュックの傘を目ざとくみつけて「これ……」と手をのばして真顔になった。嘘泣きじゃねーか。
右ななめの子の傘。めちゃくちゃかわいい系の柄とかではないと思うけど、たしかに一目みたら女子の傘だとわかると思う。ていうか、千歳なら気づく。
「浅黄くんにオンナのカゲが!」とか言ってとっととあきらめろ!
「やっぱりこの傘。浅黄くんだった。見間違えるわけないもん」
千歳の反応は予想してたのとちがって淡々としている。
「歩いてたよね。女の子と。コレさして」
まさか、見られてた? 繁華街のどこかで? 見てたなら声かけて来そうなもんだけど。凸られてたら彼女を名乗る謎の女と、あの子と俺でド修羅場になってたのか。千歳にまだ理性があってよかった。
「なかよく相合傘しちゃって……」
うつむいてぶつぶつ言っている千歳がパッと俺をみあげた。
「あの子とつきあう?」
「……かもな」
どちゃくそ嘘をついてる自覚があるから、昨日うまくいかなかったのを何かのせいにしたい気持ちがわきあがる。そう、例えばほかのやつといるときまで頭に浮かんできたコイツ、とか。
「……だめ」
食いさがるのはいつものことなのに、無性にいらいらした。
「だめってなんで? お前に指図されなきゃいけないの? お前以外のやつと関わるなってこと?」
やば、思ったよりひくい声でた。千歳の肩がピク、とゆれるのが目にはいったけど、口をつく言葉がコントロールできない。
「ただとなりの家に住んでただけのくせに、やることなすこと全部に口出すなよ」
千歳が無言でうなづくのが視界のはしに映る。
「俺、お前がいやがることこれからバンバンするし、はやく嫌いになれば?」
もう、千歳の顔を見てられなくて全然別のほうを向いていたけど、「……むり」とちいさい声だけ耳にはいる。
はーっとため息がでた。
「……すきっていうわりに肝心な俺の気持ちは?」
今度こそ千歳は黙ったまま。
「わがまますぎるだろ、まじでガキ」
別に。ほんとのことだ。千歳がわるい。
けどそう言ったあと、俺は逃げるように本館を飛びだした。
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