☂ scene 02

  ◇  ◇  ◇



「中村って佐々木さんと付き合ってんの?」



 でた。ついに聞かれた。中学にはいったあたりからたびたび尋ねられるこれ。階段状に机が固定されている講義室で、後ろの席に座る男子がこちらに身をのりだして口にした。最近くだけた雰囲気でしゃべるようになった必修のクラスメイト・小野寺だ。



「ちがうちがう。もし向こうがそうって言ってても冗談だから」



 いやそうな顔をつくって答える。

 千歳のことだから大学からの付き合いの人に、浅黄くんの彼女はわたし、とか言いそうだ。たぶん、俺がいないとこでは言わないと思いたいけど。



「すげー仲良さそうじゃん。なついてるっていうか」


「向こうがね!」



 強調するかんじで訂正しておかないと。大学では聞かれたくなかったのに、千歳から逃げきれずによくいっしょにいるところを目撃されているんだろう。



「フツーに昔から家近かっただけで、ただのトモダチ」


「ふーん」



 トモダチ、って変な言いかただと思いながら口にする。知りあい、だと冷たすぎる気がするけど、幼なじみとかわざわざ言いたくなかった。



「彼女別にいるとか?」


「や、いないけど」



 一段高い位置にいる小野寺にどぎまぎしてるのがバレないようにさらっと言った。急に恋バナ? あんまり好きじゃねーけど。おもに千歳のせいで。



「じゃーさ、俺幹事なんだけど合コン興味ない? 今ひと集めてるとこでさー」



 合コン――……なんてすばらしい響き!



「行かせていただきますっ!」



 身をひねって、俺の救世主とガシっと握手をかわす。



「わ、よかった。中村ノリいいー。女子の幹事、女子大の子でさ。バイト先の。可愛い友だち連れてくるって!」


「ホンモノの女子大生やー!」


「いや、うちにもいるけどな、女子大生」



 そう言って笑う小野寺とひとしきり盛りあがって講義室をでた。

 ついに俺にも大学生らしいイベントが! 合コン1発で彼女ができるとはさすがに思えないけど、同級生とはちょっとちがうかたちでの出会いが待ってるのは新鮮でわくわくする。

 いや、変な言いかたするのはやめよう。これこそ脱・千歳の第一歩じゃんね!? 正直ちゃんとした女子にモテたい!


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