第45話 バンガロー

 資料館をひと通り見終わったわたしたちは、箱根神社に参拝して、公演の成功を祈願した後、松平先生の車で御殿場のキャンプ場まで移動した。


 芦ノ湖の対岸にもキャンプ場はあるんだけど、そこは高いので少し遠くへ泊まることにしたのである。


「こ、これは……」


「いかにも合宿、って感じですね」


 わたしたちが車を降りて、これから二泊する予定のバンガローに入室すると、圭夏ちゃんは言葉を失い、永井先輩は苦笑した。


 木目が丸見えの壁はいかにもバンガローって感じだけど、畳敷きの床はあんまりキャンプ場らしくない(永井先輩の言う通り、合宿っぽさはあると思うけど)。


 圭夏ちゃんは「合宿ではキャンプ場に泊まる」と言われた時にウキウキしていたから、たぶん、そのことが不満なんだろう。


 ちなみに、松平先生いわく、バンガローの料金システムはホテルやカラオケのような「一人いくら」ではなく「一棟いくら」なので、五人で泊まれば一人当たりの負担はかなり軽くできる、らしい。


 実際、今回の合宿では二泊するにも関わらず、宿泊費は五千円もかかっていない。


「あたし、ベッドじゃないと寝れないんだけどな……」


 押し入れの布団を見ながら、圭夏ちゃんが愚痴をこぼす。


「ワガママ言うんじゃありません。ていうか、どうせあなたたちは夜中まで雑談してて寝ないつもりでしょ?」


「いえ、わたしは明日に備えて、早めに寝ようと思ってます」


 松平先生の質問にそう答えたのは、永井先輩だった。


「先輩、ロッカーなのに何を真面目ぶってるんですか? 朝まで語り明かしましょうよー」


「いや、明日は山道を歩くわけだし、体調は万全にしておかないと……」


 圭夏ちゃんにウザ絡みをされて、割と露骨に嫌そうな顔をする永井先輩。


「あっ、わたしも早めに寝ようと思ってます。単純に移動で疲れたので……」


 そんな中、わたしはおずおずと手を挙げて、永井先輩に同調した。


「千秋まで……中島先輩、先輩は夜ふかししますよね!?」


「ううん、私も早めに寝るわ。遊びに来たわけじゃないんだし」


「せ、先生みたいなこと言わないでくださいよ……」


 最後の希望だった中島先輩にも首を縦に振ってもらえず、圭夏ちゃんはガックリとうなだれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る