第28話 伝えたいこと

 その日の夜。


「うーん……」


 わたしは一人、パジャマ姿で自室の机に向かいながら唸っていた。


 今日のミーティングで、「ロミオとジュリエット」を現代風にリメイクするためのアイディアはかなり出たので、これらをまとめるだけでも一応、演劇としては成立しそうなんだけど、正直、それじゃつまらないと思う。


 せっかく創作をするんだから、ロミジュリを題材にするにしても、もっと大胆な脚色をしたい。


 ちなみに、「胸糞の悪いバッドエンド」は嫌いなわたしだけど、大団円的なハッピーエンド以外は認めないってわけじゃなくって、むしろ切ないビターエンドは結構好きだったりする。


 実際、今までに読んできた中で一番好きな小説も、傭兵とお姫様の身分違いの恋を描いたもので、主人公とヒロインは結ばれずに終わるけど、二人の心は通じ合っているので読後感は爽やか……って感じの作品だ。


 要するに、わたしは「後味の悪い話」が苦手なのである。


 なので、現代の日本人が見て違和感のない悲恋として成立させられるんなら、「ロミオとジュリエット」を元にした話を書くのはやぶさかじゃない。


 とはいえ、ロミジュリに特別なこだわりがあるわけでもないので、完全にオリジナルの話をやっても――


 いや、それは流石に難易度が高すぎる。


 だって、わたしは作文が得意で読書が趣味というだけで、これまで短編小説すら書いたことがないんだから。


(そういえば、どうしてわたしはこれまで、自分でお話を書こうとしなかったんだっけ……?)


 たぶん、それは「難しそうだから」っていうのが一番の理由だ。


 でも、わたしの中に永井先輩のような、世の中に訴えかけたい強烈な何かがあれば、そんなことは理由にはならなかったんじゃないだろうか。


 つまり――ただ漠然と「将来は物語を考える仕事をしたい」と思っているだけで、観客に伝えたいものがこれといってないから、わたしはダメなんじゃないか?


 だって、創作っていうのは、誰かに何かを伝えるためにするものなわけで。


 それがない人間の書いた話なんて、それまでその人が観たり読んだりしてきた作品を継ぎ接ぎにした、キメラのようなものにしかならないはずだ。


 だからといって、今更諦めるわけにもいかない。


 自分一人で書いている小説なら、途中で筆を折っても誰も困らないだろうけど、わたしが締切までに台本を書き上げられなかったら、演劇部のみんなに迷惑がかかるんだから。


(明日の昼休み、永井先輩に相談しよう……)


 頼ってばっかりで申し訳ないとは思うけれど、先輩と比べて自分はダメだと感じたんだから、その先輩に相談するのが一番だろう……。

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