第24話 部長は誰だ

 翌日。


「えー、一応部員も集まったってことで、今日は活動方針について話し合いたいと思います」


 部活として認可される人数が揃い、正式に演劇部の部室として使用することが許可された空き教室にて、黒板を背にして圭夏ちゃんが言った。


 今後の方針を決める大事なミーティングなので当然、今日は永井先輩もわたしや中島先輩と机を並べて座っているものの、人数合わせで入部した圭夏ちゃんの友達二人は不在だ。


 教室の後方でわたしたちを監督している顧問の松平先生は、そのことが不満だったみたいだけど、圭夏ちゃんに「先生だって名ばかり顧問じゃないですか」と指摘されると、反論できずに黙ってしまった。


「一応、ね……それで、具体的には何を話し合うの?」


「とりあえず、まずは部長決めですね」


 中島先輩の質問に、圭夏ちゃんが答える。


「……え? 部長は大鳥さん、あなたじゃないの?」


「えっ? あたしは、中島先輩にやってもらおうと思ってたんですけど」


「どうして私なのよ……?」


「だって、永井先輩は軽音部の部長ですし……」


「つまり、永井先輩を除くと最年長の私が部長をやるべきだって言いたいの?」


「イエス」


「年長者を敬うような性格でもないくせに、ずいぶんと調子がいいわね……」


 親指を立ててニッと笑う圭夏ちゃんに、こめかみを痙攣させながら中島先輩は言った。


「だいたい、舞台の総合的な演出は大鳥さんが担当するんでしょう? そういう人が部長を務めたほうが、部の組織図もわかりやすくなっていいんじゃないかしら」


「うーん……でも、部長って生徒会や職員室に提出する書類を作ったりするのがめんどくさそうなんですよね……」


 圭夏ちゃんは腕を組みながら、「実際どうなんですか?」とでも言いたげな視線を永井先輩に向けた。


「まあ、多少の事務仕事はこなさなきゃいけないけど……でも、そこまでめんどくさいってほどではないと思うわ」


「なるほど……じゃあ、中島先輩がやってくれてもいいんじゃないですか?」


 永井先輩の返答を聞いた圭夏ちゃんは、再び中島先輩に話を振る。


「なんでそうなるのよ……要するにあなた、部長の役割を人に押し付けたいだけなんじゃないの?」


「うぐ……」


 図星を指され、言葉に詰まる圭夏ちゃん。


 弁が立つ彼女にしては珍しいけれど、今回ばかりは中島先輩が全面的に正しいのでしょうがない。


 だけど、「正論で論破されて、仕方なく部長を引き受ける」って形だと、圭夏ちゃんの部活に対するモチベーションが下がってしまうような気がする。


 実際、松平先生の顧問としてのやる気のなさは、最近までランドセルを背負っていた小娘に二度もいいように丸め込まれたことと無関係ではないはずだ。


(なるべく、圭夏ちゃんの顔を立ててあげないと……)


 そう考えたわたしは席を立って、彼女の耳元に口を近づけた。


「ん? どしたの、千秋」


「あのね……圭夏ちゃん。昨日は人数合わせの件で中島先輩に妥協してもらったわけだし、ここは圭夏ちゃんが折れてあげたほうがいいんじゃないかな……?」


「あー、確かに……それはそうかも……」


 わたしが囁き声で説得すると、幸いなことに圭夏ちゃんは態度を軟化させてくれた。


 正直、幽霊部員で人数合わせをすることを、中島先輩がそこまで気にしているとは思えないけど、「部の運営のためにお互い妥協した」という形にしておいたほうが、今後の活動がスムーズに行くはずだ。


「じゃあ、部長はあたしで決まりってことで」


 黒板に「部長 あたし」と、お世辞にも綺麗とは言えない字で圭夏ちゃんが書き込む中、わたしはさっきまで座っていた席に戻る。


「榎本さん、いったいどんな魔法を使ったの……?」


「あはは……」


 圭夏ちゃんを説得するにはもっと時間がかかると思っていたであろう中島先輩の問いに、わたしは曖昧な愛想笑いで答えた。


 だって、圭夏ちゃんに話した内容を正直に伝えたら、この人はたぶん怒るだろうから。

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