三章 演劇部、始動

第23話 足りない部員は

 永井先輩の入部が決まってから二週間後。


 わたしたち演劇部は、ある問題に直面していた。


「にしても、入部希望者全然来ませんねー」


 放課後、体力作りのためのランニングの最中に、圭夏ちゃんがその問題についてぼやく。


「うちの学校の規模を考えれば、もうこれ以上は来ないんじゃないかしら」


 そう答えたのは、彼女と並走している中島先輩だった。


 なお、体力のないわたしは二人の少し後ろを息を切らしながら必死に走っている状態で、永井先輩は軽音楽部の活動に顔を出していて不在である。


「それより、いつまでこういう基礎連を続けるつもりなの? いい加減、本格的な稽古に入りたいのだけど」


「そんなこと言われてもなあ……部員が集まらないと活動方針も、どんな話をやるかも決められないですから」


 ちなみに、演劇部は未だに誰が部長なのかも決まっていない。


「あ、最悪あたしの友達に、籍だけ置いてもらうって手も……」


「幽霊部員で数合わせをするってこと? 嫌よ、そんなの」


 圭夏ちゃんの提案に、中島先輩は即答した。


 彼女が美術部から移籍してきた経緯を思えば、やる気のない部員が入ってくるのを嫌がるのは当然だろう。


 でも、部員を五人揃えないと、どうしようもないのも確かなわけで――


「気持ちはわかりますけど……これ以上は入部希望者来ないって言ったの、先輩じゃないですか」


 不満そうな声で反論する圭夏ちゃんがどんな顔をしているのかはここからは見えないものの、なんとなく唇を尖らせているような気がした。


「そうだけど……ねえ、榎本さんはどう思う?」


「はぁ……はぁ……えっ?」


 中島先輩から急に話を振られて、わたしは驚きのあまり体をビクッと震わせた。


「え、えっと……」


 二人のように走りながら話す余裕がないわたしは、立ち止まって思案する。


「美術部の人たちにみたいに、部活に来て遊んでたり、関係のない話をしてたりしたら鬱陶しいかもしれませんけど、そもそも活動に来ないのであれば、邪魔にはならないんじゃないでしょうか……」


「なるほど、一理あるわね……」


 そして、自分なりの考えを述べると、わたしに合わせて立ち止まってくれていた中島先輩は、得心が行った様子で目を伏せた。


「大鳥さん、それでいい?」


「へ?」


 同じく立ち止まってくれていた圭夏ちゃんが、中島先輩の質問に首を傾げる。


「人数合わせの幽霊部員には活動方針に口出しさせないし、部活中に茶化しに来たら即刻帰ってもらうってことでいいかしら、って聞いてるの」


「もちろん、そのつもりですけど……そもそもあたしが誘うつもりの友達、ソフト部で忙しいからこっち来てる時間はないと思いますし」


 具体的に言い直す中島先輩に、きょとんとした顔で答える圭夏ちゃん。


「……どうやら、私の一人相撲だったみたいね。ごめんなさい」


 そんな彼女に、ばつが悪そうな表情で中島先輩は謝った。

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