第19話 出来のいいチラシ

 数日後の放課後。


「どうかしら?」


「おお……」


 演劇部――まだ部活として認められていないのに、そう言っていいのかは微妙なところだけど――が、勝手にミーティング用の仮部室として使っている空き教室にて、中島先輩が作った新しい部員募集のチラシを見た圭夏ちゃんは、感嘆の声を漏らした。


「すごい……」


 わたしも、思わず息を呑む。


 少し前にわたしが作ったチラシは、なんというか学校のホームルームで配られるプリントみたいな出来で、ひと目見ただけで「見学してみようかな」と思えるようなクオリティとはお世辞にも言えないものだったんだけど、先輩が作成したそれは、ポスターとして校外に貼り出してもまったく恥ずかしくない完成度だった。


 彼女が目指しているのはファッションデザイナーであって広告デザイナーではないから、こういうチラシ作りは厳密に言えば専門外なんだろうけど、それでもわたしよりは遥かに上手というか、目を引く力が段違いだ。


 この人はたぶん、「一瞬で視覚に訴えかける表現」が得意なんだろう。


 あと、単純に絵が上手い。


「これなら、部として認められる人数なんてすぐに揃いそう! いや、それどころか、十人……ううん、二十人くらい入部希望者が来ちゃうかも~!」


「言い過ぎよ。二十人って言ったら、全校生徒の二割近くじゃないの」


 はしゃぐ圭夏ちゃんに、中島先輩が冷静にツッコミを入れる中、わたしは一人、モヤモヤしたものを感じていた。


 先輩が入部希望者が集まりそうなチラシを作ってくれたことは、演劇部結成を目指す人間の一人としては喜ぶべきことなんだって、頭ではわかっている。


 でも、やっぱり、わたしの作ったチラシを初めて見た時と、今の圭夏ちゃんの反応の差には、どうしても劣等感を覚えてしまう。


 そして、他人の才能を素直に認められない自分に嫌気が差す。


(早く、台本が書きたいなあ……)


 適材適所って言葉もあるし、できるだけ速やかに、自分の得意なことで圭夏ちゃんに――いや、演劇部に貢献したい。


 部員もろくに集まっていない段階で何を考えてるんだって話だけど、それでもこの時、わたしは強くそう思った。

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