第15話 美術部の腐敗

 入部希望者の名前は、中島なかじま三春みはるというらしい。


 わたしたちより一つ上の先輩で、現在は美術部に所属しているそうだ。


「美術部って、やる気のない部員とか幽霊部員が多いのよ。どうしてだと思う?」


 夕暮れ時の住宅街を歩きながら、わたしたちにそう尋ねてくる中島先輩。


 ちなみに、今は「学校にはほぼ新品のまっさらなスケッチブックしか持ってきていないから、うちまで作品を審査しに来てほしいの」という先輩の要望に従い、わたし、圭夏ちゃん、中島先輩の三人で、先輩の家を目指しているところである。


(それにしても……)


 まさか小学生時代、友達の家へ遊びに行ったことのないわたしが進学早々、初対面の先輩の家まで行くことになるなんて。


 まったく予想していなかったことだし、圭夏ちゃんが一緒じゃなければとても耐えられなかっただろう。


「さあ……?」


「入りたい部活がない生徒たちの受け皿になっているから……ですか?」


 圭夏ちゃんが首を傾げる隣で、わたしは憶測を口にする。


「その通りよ。運動部のような朝練や土日の練習もなければ、音楽系の部活みたいに人前で演奏を行うこともないからね。それどころか、コンクールや展覧会に作品を出さなきゃいけないってノルマさえないから、一部のやる気がある生徒以外、ほとんどの子は部活に来てもどうでもいい雑談で時間を潰してるだけなのよ」


 中島先輩の口ぶりからは、美術部への不満や憤りがありありと伝わってきた。


 でも、それはやる気のない生徒たちが悪いのではなく、部活を強要する大人たちに責任があるんじゃないだろうか。


 だって、やる気のない人たちも成績に響かないのであれば、放課後はさっさと帰ってゲームをしたり、漫画を読んだりして過ごすはずなわけで。


 そのほうが中島先輩のような、モチベーションに満ち溢れた人にとっても良いはずだ。


「そうなんですね……どうしてうちの学校って、部活強制なんでしょう……?」


 そう考えつつ、わたしは言った。


 思ったことすべてを口にしなかったのは、この人に対してどこまで心を開いていいのか、まだわからなかったからだ。


「さあ、どうしてかしらね。私が聞きたいくらいよ……ていうか、まともな理由があるんだったら、幽霊部員や絵を描かない美術部員を放置したりはしないでしょ」


「た、確かに……」


「なんか、昔の風習が中途半端に形だけ残っちゃってるとか、そーゆー感じなんですかねえ」


「大方、そんなとこでしょうね。先生たちが学生だった頃って、今よりも青春イコール部活みたいな風潮が強かったはずだし」


 軽い口調ながらも一応、敬語で話す圭夏ちゃんに、中島先輩は吐き捨てるように答えた。

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