元魔王様とテルイゾラの地下空間 4

 ジル達は場所を更に移動する。

フォルトゥナが知る地上と地下を行き来出来る権限がある者のところへとやってきた。


「ここです!」


「「…。」」


「娼館か。」


 フォルトゥナに連れられてやってきたのは娼館だった。

露出度の高い服を着た女性達が客引きをしている。


「ここの女主人が地下に行く権限を持っています。地上と地下の娼館の纏め役らしいです。」


「成る程な。」


 地下でもかなりの人数が暮らしている。

ストレス発散の為にもこう言った施設は重要だ。


「フォルトゥナ、他に心当たりは無いのですか?」


「ありません!」


「ジル様にもここに入れと?」


「他に知りませんから!」


 レイアとテスラに他を案内しろと言われるがフォルトゥナは首を横に振る。

本当に心当たりが無いのかもしれないが、その視線は既に娼館に釘付けとなっている。

女好きのフォルトゥナらしい。


「このインキュバスは今直ぐに滅ぼすべきじゃないかしら?」


「ジル様に悪影響を及ぼしそうですね。機会を見てやってしまいますか?」


「き、聞こえる声量でこそこそ話しは止めて下さい!?」


 レイアとテスラが物騒な会話をしているが声を小さくしている訳でも無いので丸聞こえだ。

それに声のトーンが冗談では無さそうに聞こえてフォルトゥナが慌てている。


「そもそも我々が入る必要は無いのでは?」


「そうよ、あんた一人で行ってきなさいよ。」


 ジルを娼館に入れたくない二人がフォルトゥナ一人で行ってこいと言う。


「え!?い、いや~、一人は勇気が出なくて。」


「そんな事は知りません。」


「勝手に行ってベタ惚れ薬を使ってきなさい。」


「そ、そんな~。」


 地下に行く権限を持った者にベタ惚れ薬を使って連れて行ってもらうのが今回の目的だ。

そのついでに娼館を少し楽しもうとフォルトゥナは考えていたが、ジルが一緒に来てくれないと少し不安だ。

フォルトゥナは助けを求める様にジルの方を見る。


「まあ、ここまでやってきたのだし付き合ってやろう。」


「…ジル様、本気ですか?」


「まさか興味が!?それなら代わりに私が…。」


「って何を口走っているのですか!?」


 ジルの発言にレイアとテスラが驚き、暴走気味な発言までして取り押さえられている。

娼館に入れない為に誘惑しようとするとは、さすがはサキュバスだ。


「ジル様は相変わらずモテモテですね。羨ましいですよ。」


 その様子を見てフォルトゥナが深く溜め息を吐いている。

昔からこの魔王様はモテていないところを見た記憶が無い。

魔族を率いる王として絶大な人気を得ていた。


「お前もモテない訳では無いだろう?」


「僕は良い人止まりが多いですからね。…彼女いない歴=年齢ですし。」


 後半の言葉を苦しそうに口にする。

フォルトゥナの見た目は普通に格好良い。

外見だけならば惚れる女性は少なくない筈だ。

その足を引っ張っているのはやはり性格だろう。


 一夫多妻はこの世界では普通の事なので女好きは度が過ぎなければそこまで気にされない。

しかし臆病な性格と言うのはあまり好かれない様だ。

いつも逃げてばかりいるフォルトゥナだったので、それが情けないと言う風に思われたのだろう。


「独身は我も同じだぞ?」


「そう言えばジル様は女性に興味がないんですか?昔は僕達の為にそんな暇は無かったですけど今なら余裕はあるのでは?」


「「っ!?」」


 突然のフォルトゥナの重要な質問に取り押さえ合っていた二人が完全に動きを止める。

これから発される一言一句は絶対に聞き逃さないと言った様子で遠くから様子を伺っている。


「現状はまだ考えていないな。今の我には毎日が刺激的だ。やりたい事も多い。そう言った事はもう少し我のやりたい事を自由に楽しんだ後だな。」


 転生前は神々から頼まれていた事もあって色々と余裕が無かったが、今世は自分の好きな事に時間を使える。

面倒事もたまにはあるが今は人生の流れに逆らわず、その時その時を楽しんでいたい。


「ジル様は相手に困らなそうですから余裕があって羨ましいですよ。」


「有り難い事に我に好意を寄せてくれている者は多いからな。そして昔から転生後の今になっても仕えてくれて、我を想ってくれている者達を蔑ろにするつもりも無い。」


 チラリと視線を向けると二人がビクッと身体を跳ねさせている。

徐々に言葉の意味を理解したのだろう、顔の赤みが増していく。


「それはつまりあのお二人を!良かったですね二人とごふおっ!?」


 お祝いの言葉を口にしようとしたフォルトゥナは一瞬で距離を詰めてきたテスラに顔面を殴られて吹き飛んでいる。


「あああ貴方は黙ってなさい!」


「こここ殺してもいいですよね?いいですよね?」


 テスラが照れを隠す様にフォルトゥナに当たり、レイアは顔を真っ赤にして目を回しながら腰の剣に手を伸ばしている。

このままでは本当にフォルトゥナが死んでしまう。


「おいおい止めてやれ二人共。」


「ひうっ!?」


「にゃっ!?」


 ジルが声を掛けながら肩に手を乗せると二人が大きく飛び退いて距離を取って抱き合っている。

恥ずかしがり屋なレイアならまだしも、普段から過激な発言も多いテスラまでもがこうなるとは意外だった。

好きな者の正直な好意には弱い様子だ。


「あれは暫く使い物にならないな。ミネルヴァ、フォルトゥナは生きているか?」


「はい、かろうじて息があります。」


 吹き飛ばされて倒れたままのフォルトゥナをミネルヴァが起こしてくれている。

良い一撃が入っていたが一命は取り留めた様子だ。


「それならポーションを飲ませてやってくれ。それと起き上がったら直ぐに離れた方がいい。」


「畏まりました。」


 フォルトゥナの事だ、女性のミネルヴァが介抱してくれたと知れば目をハートマークにして迫る可能性が高い。

四六時中付き纏われる様になるのはミネルヴァも嫌だろう。


「やれやれ、これから大事な場面だと言うのに大丈夫なのだろうか。」


 先行きが不安になって溜め息を吐くジルだった。

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