元魔王様とテルイゾラの地下空間 3

 フォルトゥナが取り出したのは先程のオークションで落札していたベタ惚れ薬だ。

意中の相手を自身の虜にしてしまう恐ろしい魔法道具である。


「それを使ってまで彼女が欲しいのかしら?」


「ついに魔法道具の力にまで頼りたくなりましたか?」


 テスラとレイアから冷たい視線が向けられる。


「うっ、確かに未だ孤独の身ですが…ってそんな事しませんよ!」


 フォルトゥナが声を上げて否定する。

そんな非道な方法で自分を好きな女性を作ろうとしていた訳では無いらしい。


「それなら何に使う気なのよ?」


「これは一種の魅了魔法として使えます。相当な効力を持っていますから。」


 意中の相手を自身の虜にさせる魔法道具と言われていたがこれは男性女性どちらにも使える。

なので魅了魔法の代替品にもなり得るとフォルトゥナは考えた。


「あれだけの金額だったしな。」


「おかげですっからかんです。でもテスラ様の魅了魔法すら超えそうな魔法道具を手に入れられたのは助かりました。」


「は?私の魔法がこんな薬に劣るですって?」


「ひっ、暴力反対です。」


 フォルトゥナの発言を聞き逃さず、テスラが睨みながら手の関節をパキポキ鳴らしながら近付いていく。

そしてそれを見たフォルトゥナは顔を青ざめさせてジルの背後に隠れる。


「落ち着けテスラ、お前の魅了魔法は我が一番認めている。」


「そうですよね!…ジル様に免じて今の発言は忘れてあげるわ。」


「ふぅ。」


 ジルの言葉に機嫌を直してくれたので、なんとかフォルトゥナは制裁を受けなくて済んだ。

思わず胸を撫で下ろしていた。


「それでそのベタ惚れ薬をどうするのだ?」


「はい、地上と地下を行き来出来る者は限られてます。そしてその者にベタ惚れ薬を使えれば。」


「自身に惚れさせて頼みを聞いてもらう。共に降りられる様になると言う訳か。」


「そう言う事です。」


 フォルトゥナがベタ惚れ薬を入手した理由はこれだった。

人質を助ける為の一手を自分で考えて用意しようとしていたのだ。


「行き来出来る者に当てはあるのですか?」


「僕の知っている人物の中に一人だけ心当たりのある女性がいます。」


 既に権限のある者は調査済みの様だ。

後はその女性にベタ惚れ薬を使うだけである。


「女性ですか。仮にもインキュバスなのですから、薬に頼らず堕としてほしいですけどね。」


「うぐっ!?」


 レイアの鋭い言葉のナイフにフォルトゥナが胸を押さえながらよろめく。

今のはかなり効いただろう。


「レイア、止めてやれ。」


「申し訳ありませんでした。」


 ジルに言われてレイアがぺこりと頭を下げる。

フォルトゥナの前でそれは禁句だ。


「言葉のナイフが…。僕を抉りまくります…。」


「大丈夫か?フォルトゥナがそんな事を出来無いのは我が一番知っているから安心しろ。」


「ジル様、フォローになってないです。」


 ジルの言葉で更に少しだけフォルトゥナが落ち込む。


「本来インキュバスなら私達サキュバス並の魅了魔法の適性がある筈なんだけどね。」


「陣形魔法に全ての適性を吸われてしまいましたからね。」


「僕だって魅了魔法の方が良かったですよ。戦闘なんて嫌いなのに陣形魔法に適性があっても嬉しくないですもん。」


 テスラとレイアの言葉にフォルトゥナも不満そうに言う。

インキュバス種はサキュバス種同様に魅了魔法が得意な魔族である。

個人差はあるが高い適性は皆が所持ているのが普通だ。


 しかし何故かフォルトゥナだけはその魅了魔法の適性が殆ど無いのだ。

魅了魔法だけでは無く、陣形魔法以外の適性が全て最低クラスなのである。


 その代わりに陣形魔法はとても高い適性を持っていた。

そんな陣形魔法だが一応魅了魔法の真似事は可能だ。

しかしとてつもなくお金が必要になるので軽い女遊び程度で使っていたら直ぐに破産してしまうだろう。


「まあ、そう言うな。お前の身を守る為の大事な魔法だろう?」


「それはそうですけど。テスラ様とまでは言わなくても、レイア様くらいの魅了魔法の適性は欲しかったですよ。同族を見ていると特に。」


 そう言ってフォルトゥナは大きな溜め息を吐いている。

同じインキュバス種の者達が女性と楽しく過ごしている姿をどれだけ見てきた事か。

その度に陣形魔法はいらないから魅了魔法が欲しいと思っていた。


「適性に関しては諦めて下さい。」


「それに完全に無い訳じゃないんだし、なけなしの適性で頑張りなさいな。」


 低い適性の魅了魔法が活躍した記憶は無い。

なのでテスラの言葉に少しムッとしてしまったフォルトゥナは言ってはいけない言葉を口にしてしまう。


「まあ、お二人は適性を持っていても僕と同じ独身でひっ!?」


 言葉を途中で途切れさせる程の殺意が二人から向けられる。


「フォルトゥナ、死にたいらしいわね?」


「全身の血を抜いて干からびさせますよ?」


 底冷えする様な二人の声色にフォルトゥナは再びジルの背中に隠れる。

その表情も笑っている様で笑っていない。

本当に実行しそうな程の殺意である。


「じ、ジル様!助けて下さい!」


「やれやれ、お前のその余計な事を言う口も相変わらずだな。」


 ジルが二人を宥めてくれたおかげで何とかフォルトゥナは一命を取り留める事が出来たのだった。

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