元魔王様とテルイゾラの地下空間 2


 移動して落ち着ける場所にやってきたジル達はフォルトゥナのこれまでの事を聞いていた。

一応魔王関連の話しも出るかもしれないのでミネルヴァには少し離れた場所で治安維持組織が来ないか見張りを任せている。


「随分と大変だったのだな。」


「ジル様の庇護下にいられた間は助かっていましたけど、誰にも守ってもらえないのは大変で。」


 強くても戦いには向かない性格のフォルトゥナは元魔王であったジルが死んでから随分と苦労していたらしい。

女性との縁にも恵まれず、敵対種族である人族に出会わない場所を転々としていたそうだ。


「それはジル様への文句ですか?」


「一発絞めてやろうかしら。」


「ひっ!?こ、こんな風にその日を生きるのも大変だったんです。」


「フォルトゥナらしいな。」


 厳しい視線を向けるとレイアと拳を握り締めるテスラを見てフォルトゥナが怯えている。

昔は不自由無く暮らせていたからこそ、変化に慣れるまで大変だった。


「確認だが人質を助けられたら共に我に世話になりたいと言う事でいいんだな?」


 これまでの苦労話しは聞き終えたのでこれからの事に付いて確認する。


「はい!またジル様の庇護下で安全に暮らせるなんて夢の様です!」


 フォルトゥナが目をキラキラと輝かせながら言う。

ジルの近くにいられるのなら、再び平穏な毎日を送る事が出来る。


「人質のいる場所は分かっているのですか?」


「全く分かりません。」


「何でよ、テルイゾラで過ごしてたんでしょ?」


 ジル達がやってくるまでもフォルトゥナはテルイゾラで過ごしていた。

同じ島にいて把握していないとは思わなかった。


「僕の役目はテルイゾラの無法者の取り締まりでしたから。人質の隔離場所なんて携わらせてもらった事ありませんもん。」


 簡単に会える様なところに閉じ込めていても人質の意味が無い。

なので捕えられた人質達は何処かも分からない場所へと連れて行かれたと言う。


「全く見当が付かないのか?何かしらの怪しい場所とか。」


「うーん、怪しいかは分かりませんがテルイゾラに運び込まれる大量の物資は地下に保管されています。この都市と同じ規模の地下が広がっているらしいので、その中なら可能性もあるかもしれません。」


 聞いた話しなのでフォルトゥナも見た訳では無い。

それでも地上よりは可能性が高そうだ。


「それならジル様の時空間魔法で一発ですね。」


「そうだな、それらしい場所くらい見つけられるだろう。」


 空間把握を使えばこの場所にいながらでも探す事が可能だ。

位置さえ分かれば行動もしやすくなる。


「あ、ここからは無理ですよ。地上から地下へのスキルや魔法は魔法道具で妨害されていますから。耐久度も相当なので少しの攻撃では崩落の心配もありません。」


 ジルは念の為空間把握を使用してみる。

しかしフォルトゥナの言う通り地下に認識範囲を広げようとしても何かに阻まれてしまって視えない。

これでは人質達を探す事も出来無い。


「確かに視えないな。」


「防衛が徹底されていますね。それでは魔法を使用するのは地下へ向かってからですか。」


「そうなりますね。」


 地上から地下へは無理でも同じ地下同士であれば阻まれる事は無い。

それなら一度地下に向かってから魔法で探せばいいだけだ。


「でも僕は地下へ行く権限が無いんですよね。」


「権限?」


「テルイゾラの地上と地下を行き来出来る者は限られているんですよ。」


 権限の無い者は地上と地下を繋ぐ出入り口を通れない仕組みとなっているらしい。

なのでフォルトゥナは地下へ行った事が無い。


「なので僕みたいな立場の方が地下にもいるみたいですよ。そう言った方は逆に地上へ行く権限が無いらしいです。」


 人質を取られた治安維持組織の者は地上だけで無く地下にもいる。

フォルトゥナ達が地下へ行けない代わりに地下の治安を守る役目らしいが、こちらは反抗的態度を取って奴隷契約されてしまった者が多いらしい。


 地上にはそう言った者がいないので地下に配置されているだろうとの事だが、人質がいるとすれば逆らう心配の無い奴隷を配置した方がいいだろう。


「権限の無い者達はどちらか一方の場所で働かされていると言う事か。」


「必要以上に情報を与えない為でしょうね。」


 フォルトゥナ達は人質を取られて無理矢理働かされているのが現状だ。

この者達にテルイゾラの情報を多く渡すのは自分達の首を絞める事にもなる。


「それじゃあどうやって地下に向かうのよ?何も準備していなかった訳じゃ無いでしょ?」


「その秘策は先程手に入れてきました。これです。」


 そう言ってフォルトゥナが取り出したのはオークションで落札したベタ惚れ薬だった。

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