元魔王様とフォルトゥナとの再会 12

 フォルトゥナは大きく溜め息を吐いてテスラの方を見る。


「本当は戦いたくないのですけどね。特に女性とは。今直ぐにでもこの場から逃げたいですよ。」


「そうしないのは人質が取られているからね?」


「はい、奴隷の女の子なんですけど、僕が逃げたせいで酷い目に合わせられるのは可哀想ですから。」


 自分の気持ちよりも奴隷の少女の安全の方が重要なのだ。


「へぇ、つまり今から貴方と戦う私は可哀想ではないと?」


「確かに申し訳無いとは思いますよ。でも死ぬ訳ではありませんから。」


 あまり手荒な事はせずに捕まえるつもりだ。

女性にはなるべく怪我をさせたくない。


「ふーん、貴方ならこの状況もなんとか出来そうだけどね。」


「無理ですよ僕なんかには。」


「いえ、出来る筈よ。私の知っているフォルトゥナはムカつくけど私よりも強いんだもの。」


 フォルトゥナは戦いを好まず臆病で大の女好きと言うインキュバスだが、元魔王軍の最高戦力とされていた四天王と同等以上の強さを有していた。

テスラは全盛期であっても全力で戦えば負けるだろうと思っている程フォルトゥナと言う男は強かったのだ。


「…一体貴方は何者なんですか?」


「この姿だと分からないわよね。それに仮初の姿だと全力を出せないし、フォルトゥナ相手なら仕方無いわよね。」


 テスラは人化を解いて本来の姿に戻る。

魔族は人族の敵と言う認識を持たれているがこの中立都市であるテルイゾラでは別だ。

フォルトゥナもインキュバスの姿で普通に行動している通り、テルイゾラではどんな種族であっても平等なのである。


「魔族だと!?それにサキュバス種か。やけに無力下が手慣れていると思えば魅了魔法だったか。」


 監視役の男性が納得の言った表情をしながらもホッとしている。

自分も危うく魅了魔法に掛かるところだった。


「そう言う事よ。そしてフォルトゥナ、私が誰だか思い出したかしら?」


「…。」


 テスラに尋ねられたフォルトゥナだが、足元から上に掛けて段々と揺れが広がっていき、数秒もすれば身体全体が信じられない程にガクガクブルブルと震えていた。


「お、おい。」


「どうしたんだ一体。」


 人体からそんな揺れが生み出せるのかと言わんばかりのフォルトゥナの異常な状態に仲間達も慌てている。


「私の邪魔をしてくれただけで無く、私の前に立ちはだかろうとしたわね?フォルトゥナ、覚悟はいいかしら?」


 そう言ってテスラが拳を構えるとフォルトゥナの身体がビクンッと跳ねる。


「ひっ!?ききき気付かなくてすみません!?そんなつもりじゃなかったんです!?」


 フォルトゥナは慌てふためきながら両手を胸の前でブンブンと振って戦闘の意思が無い事をアピールしている。

元四天王であり上司であったテスラに逆らうつもりなんて微塵も無い。

最初から知っていれば敵対の意思なんて示さなかった。


「へぇ、なら私とは敵対しないと言う事でいいのかしら?」


「ももも勿論です!降伏します!」


 フォルトゥナは綺麗にお辞儀して降伏宣言した。

自分の方がテスラよりも実力が優っていると言う話しに関してはフォルトゥナにとってはどうでもいい事だ。

フォルトゥナにとってのテスラは怒らせてはいけない目上の女性と言う立場の魔族なのだ。


「は?何を言っている!さっさとそこの女を捕えろ!」


「いいい嫌です!これ以上は恐ろしい事になりますから!」


 フォルトゥナの降伏宣言に監視役の男性が怒声を浴びせるが拒否している。

テスラと分かった今、そんな感情は消えてしまった。


「フォルトゥナ、大人しくしていなさいね。そうしたらさっきの事は水に流してあげるわ。」


「承知しました!」


 その場で正座してフォルトゥナは見守る態勢に入る。


「くっ!ならばお前達がフォルトゥナの代わりとなれ!」


 役に立たないと判断してフォルトゥナ以外の者達に指示を飛ばす。

フォルトゥナと一緒にやってきた実力者はまだまだいるのだ。


「残念だけどこの姿を見せた以上、負けるなんてあり得ないわね。ラブリージョン!」


 本来の姿となって魅了魔法の力も高まったテスラが自分に惚れさせる領域を生み出す魅了魔法を使用した。

その領域は結界を包む程の広さだった為、新たなフォルトゥナの仲間や監視役はまとめてテスラに惚れてしまい、目がハートマークになって戦闘は強制的に終了となった。


「さてと、これからどうしようかしら。」


 フォルトゥナを降伏させて敵全員を支配下に置いたテスラはその後の行動に悩んだ。

一先ず人化のスキルで人族の姿に戻って、何も知らないフォルトゥナに色々と説明をしてあげた。

するとタイミング良くジル達がやってきたのだった。

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