元魔王様とフォルトゥナとの再会 11

 テスラが監視役の男性に近付いていく。

自分を不快にさせてきたこの男性に容赦するつもりは無い。


「わ、私はテルイゾラの治安維持組織の幹部だぞ!私に手を出せばタダでは済まんぞ!」


「悪党がよく言う台詞ね。この前までも散々聞いてきたわ。」


 邪神教の拠点を巡っていた時も何度言われた事か。

そんな言葉を信じて手を抜くテスラでは無い。


「くっ、誰か近くにいる者応答しろ!至急市街地Bまで来い!」


「無駄な足掻きを。」


 腕に付けている魔法道具の様な物に向かって叫んでいる。

遠距離間の通信用魔法道具かもしれない。

しかしそれで駆け付けてきても断絶結界が展開されているので簡単には入ってこられないだろう。


「あんたを操って幕引きにしましょうか。」


「く、来るな!」


 男性は操られる事を恐れて尻餅を付く。

後はテスラが魅了魔法を発動すれば終わる。

そんな重要な場面で天は男性に味方した。

パリンと言う音と共にテスラが展開していた結界が砕け散ってしまった。


「は?」


 テスラは何が起きたのか一瞬理解するのが遅れた。

結界魔法の適性はジル程では無いがそれなりに高い。

なので断絶結界もかなりの強度を持っていてそう簡単に砕かれる事は無い。


 ジルの断絶結界にも当て嵌まるが攻撃に晒され続けた結果、蓄積したダメージに耐えられず砕ける事が多い。

しかし今回は一切攻撃されてはいなかった。

つまり一撃で断絶結界が砕かれた事を意味する。


「はははっ!天は私に味方したぞ!」


 援軍が到着した事を魔法道具で知って高笑いする男性。

直ぐにその者達が現れる。


「ご命令で参上しました。」


「賊はあの者ですか?」


「気を付けろ!洗脳系のスキルや魔法を持っている!」


 新しくやってきた者達が男性に駆け寄ってくる。

これで振り出しに戻ってしまった。


「えー、僕は遠慮したいです。隠れててもいいですか?」


「何を言っているの。一番の実力者が不参加なんて認められないわよ。」


 一人やる気の無い者が紛れていたが、近くにいた者に注意されて渋々テスラの確保に加わる。

そして対面した事によりフードの下にある顔が少し見えた。

それを見たテスラは小さく溜め息を吐いた。


「結界を破壊されるとは思わなかったけど、貴方なら納得だわフォルトゥナ。」


 やってきた内の一人は先程まで尾行していた元魔王軍の一人、インキュバスのフォルトゥナだった。

その実力を考えれば断絶結界を簡単に破壊してもおかしくない。


「ど、どうして僕の名前を知っているんですか?」


 これから捕える相手にいきなり名前を呼ばれたフォルトゥナが少し驚きながらも首を傾げている。


「よーく知ってるわよ。そしてよくも余計な事をしてくれたわね。」


「ひっ!?」


 知らない女性から怒りを向けられてフォルトゥナは小さな悲鳴を上げる。

美しい女性には目がないフォルトゥナだが、何故か目の前の女性には好意よりも恐れが優っていた。


「知り合いですか?」


「し、知らないです!全く身に覚えがありません!」


 仲間に尋ねられたフォルトゥナがブンブン首を横に振っている。


「だがあの者はお前の事を知っている様だぞ?」


「ぼ、僕が女性を忘れる訳ありません!絶対に初対面です!」


「確かに。」


「納得の台詞ね。」


 フォルトゥナの台詞に仲間達が納得して頷いている。

テルイゾラで共に行動して長いのか、フォルトゥナの性格をよく分かっているらしい。


 ちなみにフォルトゥナがテスラを認識出来ていないのは忘れているからでは無く、人化のスキルで見た目を変えているからだ。

魔族的特徴の羽や尻尾等が無くなるだけでも印象は随分と変わるのである。


「雑談している場合か!さっさとこの女を捕えろ!」


 悠長に話しているフォルトゥナ達を叱責する監視役の男性。

既にテスラに対する下心よりも野放しにしておくと危険だと言う思いの方が強まっているので早く対処したそうだ。


「貴方が行きなさい。貴方が知らなくても相手は知っているみたいだし。」


「え!?僕がですか!?」


 仲間に捕える役を引き受けろと言われてフォルトゥナがたじろぐ。

元々自分からの戦闘は好まない性格なのに相手が女性と言うだけでも更にやりづらい。


 それに加えて自分でも分からないのだが、何故かこの女性とは戦いたくないと言う感情が大きく膨れ上がっていた。

本能的に只者では無いと理解している。


「フォルトゥナ、お前が一番実力があるのだ!さっさとやれ!人質がどうなってもいいのか!」


「わ、分かりました。やりますよ。」


 嫌がるフォルトゥナだったが監視役の男性に人質の事を言われてしまえば逃げる訳にもいかず、渋々テスラの前へと出てきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る